零の旋律 | ナノ

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「此処は――」

 一面に広がるのは何かの研究施設の後。それはこの罪人の牢獄では見られない、あるはずのないと断言してもいいほどの高度の技術。否、国の方ですら存在しているか危うい程の技術――に見て取れた。勿論彼彼女らは研究者でもないし、技術者でもない。正確な知識などない。けれどそう思ってしまうほどにその設備されていたモノは彼彼女らの理解の範疇外だったのだ。
 透明な世界、色なき世界と一瞬錯覚してしまうほどの、白さ。一面を白と青で覆われた。幻想的な雰囲気が、色が内容に錯覚させられる。実際には白と青以外にも色が使われているのに、それらが幻想的で、現実的ではないから。

「何だよ、これ」

 一度これと似たような経験を篝火はした。
 この場所は最期の聖地と同じ気がしたのだ。もっともあそこは自然溢れる場所ならここには自然はない。機械が、何かの装置が存在しているだけ。けれど、そう似ていると思ってしまったのは匂いが感覚が気配が。明確にわからない曖昧な何かが篝火にそう思わせた。
 此処は一体何なのか。それはこの場所を知っていた栞にすらわからないようで、目を白黒させている。

「一体なんやねんここは」

 辛うじて声を出せたのは榴華だった。他の面々は榴華の声が引き金になって現実に戻された感覚に陥る。

「栞お前は何か知らないのか?」

 遊月の言葉に栞は首を横に振る。恐らくは水渚も知らないこの場所。
 けれど、此処から先には足を踏みいることが出来なかった。遊月が一歩足を前に出そうとした瞬間、遊月の身体が焦げる――錯覚に陥る。閃光が一瞬迸ったかと思うと、遊月はその場に膝をつく。

「どうしました主?」
「近づくな!」

 隣によってこようとする唯乃を制止させる。遊月は他の面々より一歩深く踏み入れようとした。
 そして――拒絶された。此処にある何かによって。
 進もうとしただけで全身を焼き殺されるような感覚が走る。汗が、呼吸が乱れる。実際現実を見れば焼き焦げてもいないし、何もない。けれど嫌な感触だけは未だに肌に残っていた。それも鮮明に――。

「幻影と結界が貼ってある」

 遊月は起き上がって答える。二度目――触れればショック死する可能性とて零ではない。遊月はそれでも自分は大丈夫だと思っている。死は免れる。けれど死以外は免れない――そんな予感がする。手すら近づけられない。

「幻影と結界?」

 炬奈が怪訝そうに尋ねる。何もあるように思えない。炬奈の感覚ではこのまま先に進めた。

「あぁ。近づくモノを恐らく全て拒絶するような、強固な結界と、そして近づいたモノの心を、精神を殺すような幻影が仕掛けられている。かなり高度な術式だ。もはや最上級といっても差し違えないほどのな。誰も触れるな」
「なんやねん。そんなんここにあってどうするんや? この場所は崩落した街であり、成り底ないの街なんや。此処にそんなものがあって何の利用価値がある」

 榴華も困惑する。此処にある存在意義がわからなかった。それこそ此処の場所でなくてもいい。最果ての街にでもあればいい。


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