零の旋律 | ナノ

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「そういうことで栞ちゃんを止められたってわけ。で結局大半の第三の街の罪人を殺してしまったから栞ちゃんが第三の街支配者となりましたってことさ」
 
 だから、成りたくてなったわけではない。譲ってほしいと言われたから是幸いと譲った。その意味が、理由が理解出来た。

「栞ちゃんの殺戮能力に右に出るものはそうそういないよ」
「それは俺も同感だ」

 似たような光景を遊月も嘗てみたことがあった。だからこそ水渚の話に嘘はないと真実だとわかる。

「……のーこめんとや」

 思わず黙ってしまう榴華。篝火も似たような心境だった。

「まぁそんな感じだよ。だから栞ちゃんくれぐれも切れさせないように」

 あの時篝火は朔夜の言っていた言葉を思い出した。
 銀髪か水渚を呼べといったあの意味を。朔夜は昔栞が本気で切れた姿を、その現状を知っていたからこそ。当時栞を止めることが出来た人物の名前を挙げたのだと。
 二人ではなく一人で止められるかわからなくても、その現状を知っている二人のうちどちらかがいれば、結果が変わるだろうと信じて。
 現在栞は水渚の会話をきいていないのか、その辺を散歩している。その姿だけを見れば先ほど研究者をあっさりと殺したようには思えない。

 一時間きっかりたった時、再び建物の中に入ることになった。
 水渚はやはり興味なさそうに一瞥しただけで、建物の中に入ることはしなかった。栞は朧埼との約束があるからか、一緒に行動を共にしている。
 此処に何かの結末があると信じて――
 様々な扉を開けていく。施錠されている場所は毎度篝火が登場して解錠する。
 施錠されている扉は毎回何かしらの研究がされていたとわかる施設が、設備があった。
 遊月はそのたびにその施設を完膚なきまでに叩き潰す。
 何か思うところがあるのか、疑問に感じながらも誰も遊月の行動について何も言わない。
 次から次へと遊月は壊す、破壊する。その表情に怒りも読み取れる。
 しかしいくら部屋に入ろうとも遊月の探し物は一向に見つからなかった。

「あれ?」

 解錠作業をしていた篝火が不思議そうな声を上げる。

「どうしたん?」
「この施錠だけ他のところと違って複雑に出来ている。値段でいうなら十倍くらい違うぞ」

 篝火は体制を変えて、鍵穴をのぞき込むように見る。
 そして上着のポケットに手を入れて。鍵のようなものを取り出す。そしてそれをいじりながら解錠していった。

「いっそ壊しちゃえば簡単なのに」

 栞の今さらの呟き。

「ってか誰か術に特化した人いないの」

 カチャカチャと音が響く中、栞の疑問。

「自分術は使うけどもっぱら紫電限定や」
「私は使う必要がないもので」
「複雑なのは使えない」
「姉さんに同じく」
「俺もなぁ使わないからなぁ」

 返答。俺もたいして使えないんだよねといって栞が纏めた。駄目じゃんと誰かがいって苦笑する。
 和んだ雰囲気の時、ガチャと、錠が地面に落ちる音がする。篝火が解錠に成功した合図でもあった。
 何があるのだろう――興味と恐怖と好奇心と目的と期待と絶望と様々な想いを其々に抱きながら扉を開ける。


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