零の旋律 | ナノ

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「俺の前に障害なんてものはないんだから。あぁ一人は生かしておいてあげる。別に生きていればどんな状態でも構わないでしょ?」

 栞はそれらを投げる。しかし研究者の前に近づいて一二本は身を呈した彼らに阻まれる。
 だが彼らに阻まれなかった黒い物体は研究者の方に近づく。だが、研究者たちには全然当たらない見当違いの場所に突き刺さった。その様子に研究者は高笑いしようとした――何処に投げているんだと。
 しかしそれは不可能だった。

「さよーなら」

 研究者は一人を除いて一瞬で切り裂かれ、骨や服、金属だろうが何だろうか関係ないようにすっぱりと斬れる。地面に倒れ込む二人の研究者。後から後から血が流れ出す。もう一人の研究者は激痛に立っていられず遅れて倒れ込む。生きてはいるが、それでも外傷は決して生易しいものではない。ショック死してもおかしくないほどだ。

「ね、だから言ったでしょ」

 その時、彼らが活動を止めた。虚ろに彷徨う。

「へぇ、三分の一くらいはまだ動くかと思ったけれど、あそこまで瀕死に追いこんだら全員攻撃してこなくなるんだね」

 痛みで研究者は何も言ってこない。

「あー止血しないと流石に死んじゃうか、ちょっと待っていてね今止血しにいってあげるから」

 にこやかに告げるが、研究者として選択は一つしかなかった――得体のしれないモノに捕まるくらいなら。

「あ、失敗。まっさかまた自害されるこは思わなかったよ」

 研究者は自ら死を選んだ。
 その場に倒れる研究者たちの死体。虚ろな彼らはもう襲ってこなかった。その場に次々と力尽きたように倒れる。

「終わったよ」

 あっさりと終幕した出来ごとに唖然とする一同。その後淡々と虚ろに彷徨う彼らに止めを刺す、苦しみがこれ以上ないように心臓を一突きに。
操る対象がいなくなった今、その驚異的な回復力も戦闘力も効果を成さない仕組みだった――。
 遊月は額を抑えて呆れていた。

「おい、栞お前若干切れていたか?」
「んーそうだね。ご機嫌ではないことは確かだよ」
「ははは」

 声にならない笑い声を上げようとして掠れる。唯乃は遊月に近づき問う。

「彼は何者ですか? 殺さずなのではなかったのでしょうか。あっさりと淡々と殺しましたよ」
「普段は、殺さずなんだけどさ。栞って切れると殺すんだよ。だから切れた栞は危険なんだ。その驚異的な殺戮能力がな」

 榴華の力とは違う。榴華が戦闘能力に特化した存在なら、栞は殺戮能力に特化した存在だと、唯乃に告げる。だからこその危惧だった。普段の栞なら殺すことはしない。けれど栞が切れたときは殺す。それでもまだ普通に話しかけられるときは敵味方の区別はつく。だが、本気で切れた時は見境なく人を殺す。殺戮を繰り出す。

「じゃあ、約束宜しく。朧埼君」

 朧埼は僅かに後悔した。確かに状況は一変した。けれど状況が此処まで変わるとは思っていなかった。
 だからこそ本当に約束してしまって良かったのかと。
 この場所にこれ以上いても仕方ないため休息も兼ねて一旦外に出ることにした。それからまた中を探索すればいいと。遊月の提案だった。
 遊月自身少し休息したかった。建物は逃げない。けれど疲れた身体は休憩を擁している。
 建物の外に出ようとする途中、栞に榴華が話しかける。

「なぁシオリンは何故きたん。此処に」
「水渚とさっきまで一緒にいたんだけどさ、なんか古ぼけたこの建物から一気に眩しい光が溢れだしたから何事かなぁと思って様子を見にきたわけ。でもそれは正解だったみたい」
「……朧埼を見つけたからか?」
「うん。そういうこと、多分もう最後に残された唯一の可能性だよ」

 栞はそれだけを答えた。
 榴華はそれ以上何も聞かなかった。変わりに篝火に話しかける。

「とんだもん掘り当ててしまったなぁ」
「全くだ。帰ったらパンを食べよう。これ決定事項」
「相変わらずやなぁ」

 榴華は微笑する。


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