零の旋律 | ナノ

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 彼は素早く再生するが。それより先に栞が攻撃を加える。
 薄香色の拳銃で。銃弾を必要としない特殊な銃で何発も打つ。

「なんでお前が俺を?」

 朧埼が釈然としない様子でたずねる。真っ先に自分を守ってくれたのが、得体のしれない男だからだ。

「気が変った。ねぇ日鵺朧埼君。一つ俺の願いを聞いてくれない?」
「それをして、俺に利点は?」
「此処から逃げるなら逃がすし、彼らを殺したいなら殺す。情報が欲しいなら一人くらいは生かそうか」

 その言葉に朧埼は違和感を覚える。
 栞は殺すのが嫌いなのではないか、殺しはしないのではないのか。
 彼らは朧埼に襲いかかろうとするが、それを栞は巧みに交わし、薄香色の拳銃で撃ち続ける。

「まぁね。殺しは好きじゃない、でも俺にはそれよりも優先したいものがある。可能性に賭けたいものがある」
「なんだそれは」
「ある人の治療をしてほしい。もう何年も目覚めていないんだ」
「俺の術で確実に目覚める保証は何処にもないぞ」
「それでも、構わないよ。この罪人の牢獄ではもう彼が目覚める確率はないに等しいんだ。だから君に可能性をかけたい」

 飄々と語る。けれど何処か寂しそうに。

「わかったよ」

 朧埼は承諾する。この男がどれ程の力を持っているか知らない。
 けれど今はこの状況を打破する可能性に欠けたかった。
 いくら遊月が、唯乃が、篝火が、榴華が、姉が強かったとしても。いくら殺そうとも復活するもの相手では勝ち目等内に等しい。
 一筋でも可能性があるならそれに縋りたかった。
 失いたくない大切なものがあるから。

「有難う」

 その話が聞こえていたのだろう。榴華が不思議そうな声で質問してくる。

「けれど、シオリン。どうするん? あいつらいくら殺しても復活してくるよ」
「簡単だよ。研究者どもを殺せばいいんだよ。命令をしているのは研究者たちなんだから」

 あっさりと、最初から答えを知っていたように答える。

「それが嘘やとは思わんよ。けれど研究者までどうやって殺すん? 彼らが常に自分らの邪魔をするよ」
「榴華の能力と俺の能力は違うよ。榴華だって本気を出せば彼ら事研究者を滅ぼすなんてことは可能だろうけれど、敵味方入り混じったこの現状では榴華は本気なんて出せないもんね」

 榴華の紫電で彼らと研究者ごと殺すのは不可能ではない。むしろ最強の戦闘能力保持者といわれる程の榴華であれば簡単なこと。それが出来ないのはこの今にも崩壊しそうな建物の中で、比較的丈夫で今まで戦っても崩壊していなかったとしても榴華が本気を出し、紫電の力を使えばどうなるかわからない。それに敵と味方が入り混じったこの場所で使えば、彼彼女らも巻き添えになる。だからこそ今まで使えなかった。

「元第三の街支配者だろうと無理だよ、はははっ」

 しかし栞の言葉を嘲るように研究者は高笑いをする。

「なんで?」

 栞が首を傾げる。しかし薄香で彼らを撃っていくことは忘れない。油断もしない。

「いくら支配者にいるような実力だったとしても。彼らをどうにかできないで私らのところまでたどり着いて殺すことなど出来ないさ」

 自信満々に答える。
 けれど栞は笑った。不気味に――。

「へぇ、俺が元第三の街の支配者だってことは知っているんだ。でも、それだけなんだね。俺が何故第三の街支配者になったのかは知らないんだ――関係ないんだよ」

 栞は薄香色の拳銃をしまう。
 そして左手にはいつの間にか、数本の短剣を模様した黒い物体が握られていた。


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