零の旋律 | ナノ

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「水渚の忠告を聞かないで此処に侵入するからこんなことになるんだよ」
「お前、来てくれるならもっと早くきてくれればいいのに」
「忘れちゃいけない。俺は別に味方でもなければ敵でもない。今はね。どちらに転ぶかわからない相手を信頼しちゃいけない」

 栞は炬奈の方を一瞬だけ見る。他の人たちより炬奈は重傷だろうと判断する。

「まぁ逃げるってならその手伝いくらいはしてあげてもいいけれどね」

 栞が言った時だった。朧埼も視界を回復させたのだろう、姉の遊月に支えてもらっている状態の怪我を見て、顔面を真っ青にして叫ぶ。

「姉さん!!」
「大丈夫だ、気にするな朧埼」

 それが単なる強がりであることは、誰の目にも一目瞭然だった。それでも炬奈は平気そうに笑う。遊月の手を借りずに立とうとする――その様子に朧埼は我慢の限界だった。
 これ以上姉のそんな姿を見ていたくない。炬奈だけではない。他の人たちも皆――怪我をしている。
 朧埼の身体が淡く発光を始める。その様子に炬奈は慌てた。

「朧埼!! 止めろ」

 だが朧埼は止めない。姉に向けて優しく笑いかける。

「姉さんがいなくなる世界なんていらないもーん」

 無邪気な子供のように。その淡い光はやがて炬奈、遊月、唯乃、篝火、榴華をも包み込む。
 攻撃の意思のない、優しく温かい光――。
 光が包み込む。そしてそれが収まること頃には怪我が消えていた。遊月の首回りは何もなかったかのように、元に戻り。ただ流れた血の後がついた服がその怪我の後を知らせている。
 篝火も榴華も先ほどまでの怪我が、傷が嘘のように消えている。炬奈も唯乃も同様に。
 研究者たちは幽霊でも見るような驚きようだった。それは怪我が治ったからではない。その存在にだ。

「まさか日鵺の!?」

 研究者の一人が叫ぶ。
 ありえないはずの存在が目の前にいるから――。

「あいつの光を見るのは二度目だな」

 遊月が最初二人と対峙した時のことを思い出す。すっかり忘却に近く忘れていたが、今鮮明に思い出せる。二人は日鵺家の生き残りで、日鵺朧埼は失われた回復の力が使える唯一の存在だと。

「ちょ、まさか彼って日鵺家の人間?」

 栞も驚いている。篝火自体日鵺の人間であることは知っていたが、目の前でその力を見るとその威力に驚き唖然としている。榴華は口をポカーンと開けている始末だ。

「あぁ。私らは日鵺の人間だ」

 炬奈が栞の質問に答える。
 その時、彼らの攻撃対象が変わった。その攻撃対象は朧埼に向いていた。
 研究者たちの表情が先ほどまでとは違う。まるで――朧埼を捕まえたがっているよう。
 炬奈は急いで走りだすが間に合わない。彼らの方がずっと早い。けれど朧埼の目の前で彼は地面に倒れる。
 朧埼の前にいたのは先ほどまで遊月の隣にいた栞。何時の間に移動したのか疑問が過る。


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