零の旋律 | ナノ

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「姉さん!!」

 朧埼は叫ぶ。姉が彼に力負けして地面に押し倒された。今にも殺そうと迫ってくる。
 炬奈は静かに術を唱える。

「風よ、一陣の刃となれ」

 風が刃となり彼を襲う。ギリギリのところで彼は跳躍して風を交わす。炬奈は彼が自分の上から離れた瞬間に、横に転がり反動を使って素早く起き上がる。
 ホルスターから拳銃を取り出す。槍は炬奈の前方に転がっている。先ほど手放してしまった。目の前には槍をとりにいかせないとばかりに彼が立っている。

「はぁはぁ。一体どうしろというのだ」

 いくら傷つけようといくら殺そうと彼らは際限なく再生する。驚異の力に炬奈は肩で息をする。
 炬奈の腕も服が破れ、血がにじんでいる状態だ。まだ致命傷も大怪我もしていないが、このまま戦いが続けばどうなるかわからない。

「姉さん大丈夫!?」
「大丈夫だ、心配するな朧埼。この程度では私はやられないよ」

 世界を破滅させるような強さなくていい。ただ大切な人を守れればいい。守るだけの強さは欲しい。

「姉さん……」

 朧埼は紐を手に握りしめる。けれどこの場で姉の助太刀にいくことがどれ程姉の足手まといになるか朧埼は知っているから、踏み出せない。


「全くなんやねん。こいつら不死身なんか」

 榴華は悪態をつく。いくら殺そうが。何度殺そうが何もなかったように復活する。
 それはある人物を思い出させる。

「痛覚があればまだなんとかなるやろうに」

 痛覚があるのかないのか、痛そうな表情を相手は一切見せない。
 怯まない。此方がいくら殺気を放とうとも。
 攻撃の手は休まない。ただ戦うだけの戦闘人形――。

「こっちが嫌になるわ……」

 榴華が一瞬だけ悲痛な表情を見せる。
 ただの操り人形。ただ命令をきく傀儡人形。
 虚ろな表情は語っている。虚ろな世界の中で、こんなこと望んでないと。

「これじゃあ、自分本気になってもかわらないやん」

 死なないのならいくら殺そうとも復活するなら。本気になったところで状況は何一つ変わらない。


 遊月の服はあちらこちらが避けていた。けれど遊月自身はまだ戦える。疲れてなどいなかった。
 苛立ちが、怒りが憎しみが研究員に向く。けれど攻撃の手はまだそこまで届かない。

「お前ら何を一体したんだよ!!」

 遊月は叫ぶ。研究員は下衆な笑みを浮かべる。

「再生能力を高め、戦闘能力を飛躍的に上昇させる便利な人形制作」
「ふざけんなっ」

 あの時より、高度に。あの時より残酷に。
 あの時より、凄惨に。あの時より完成に。
 あの時より非道に繰り返されてきたそれ。

「全部全部破壊してやるっ」

 遊月が身体を回転させて爪を伸ばし攻撃した時、彼らが襲ってくる。身体のあちらこちらが引き裂かれようと気にしない。次から次へと再生していく。
 そして遊月の首にかぶりついた――

「がっ……」

 そして遊月はそのまま地面に倒れる。
 唯乃は慌てて彼らを払う。遊月の首からは生々しく血が流れる。明らかに致命傷。

「主!!」

 唯乃はすぐに主を抱きかかえたかった。けれど現状はそれをさせてくれない。

「くっ……」

 唯乃は彼らに囲まれる。

「遊月!?」

 朧埼がその遊月の様子に気がつく。地面に倒れ伏した遊月。

「ちっ……」

 駆け寄ろうとする。けれど目の前で起こる現象に足を止める。
 遊月は起き上がった。首は無残に噛みつかれた後、血の後、傷が残っている。けれど遊月は首に手を当てながら起き上った。それは普通なら確実に致命傷であるはずなのに。

「お前っ」
「大丈夫だよ。俺には関係ないっつたた……」

 そういいながらも痛みは強くあるのだろう、遊月は顔を顰めている。

「ほぉ、なんらかのことがお前にもあるのか?」

 研究者の一人が興味津々に問いかける。それを遊月は一瞥する。

「主、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。俺は」

 例えどれ程怪我をしたとしても、痛みを伴ったとしても、自らの探し物が見つからない限り――死にはしない。


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