零の旋律 | ナノ

V


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 一方その頃遊月たちが侵入していった建物入口付近の砂の上に水渚は座っていた。
 そこに一つの影が突然として現れる。水渚は特に驚いた様子を見せない。

「栞ちゃん、結論は出たの?」

 水渚は問いかける。影――栞は水渚に近づき隣に座る。

「うーん、まだ出ないんだよね。別に俺としてはどちらでもいいってのもある」
「私は彼のことを知らないけれど、彼は君の友達だったんだよね、いいの? 放っておいて」

 名前を具体的に出さなくても栞にはそれが誰のことを指すのか理解出来た。

「わからない。確かに友達だけれど、裏切られちゃったんだよねネオには」
「裏切られたってのは罪人の牢獄からいなくなったこと?」
「そこは別にいいんだ。ネオにだってネオの目的があるのだから」
「じゃあ、何が裏切られたのかな?」

 栞は一瞬だけ話すべきか悩んだ。しかし結局口を開く。
 ――水渚には話しても構わない。

「朔夜に黙っていなくなったこと。ネオが罪人の牢獄からいなくなったとき、朔夜には何も告げないでいきなりいなくなったんだ。その時の朔夜の表情を、その時のそのネオの行動を俺はまだ許せてない」
「あぁ、成程。栞ちゃんの今の微妙な立場なのはその思いがあるからだね」
「そういうこと。あの時ネオが罪人の牢獄から脱出したがったのはわかる。ネオがこのまま罪人の牢獄にいたってネオの目的のものは手に入らない。その為には此処ではない場所で力と知識をつける必要があったんだ。だけれど朔夜にひと言もいわなかったのが許せない」

 くすりと水渚が笑った。

「あの時俺は言ったんだ。朔夜には罪人の牢獄を抜けることを伝えたのって、ネオは伝えたっていった。だから俺は手伝った。でも朔夜はそんな話きいていなかったんだよ」

 一つの嘘、一つのわだかまり、一つの裏切り。
 それが栞の中で決断を鈍らせていた。何故嘘をついたのか。何故裏切ったのかそれが理解出来るからこそ、そして理解出来るから許しきれなくて、栞は悩む。此処から先どちらの道を選ぶか。
 見極めていない。見極められなかった。朔夜をこの場所に連れてこなかったのもそれが一つの要因であった。

「全く栞ちゃんはいつだって朔夜を思っているんだね」
「俺は水渚のことも、千朱のことも思っているよ」
「でも、千朱ちゃんはもう戻ってこない――いつか目覚めるかもしれない。その希望だけで生きていくのはつらいんだよ」

 水渚がぽつりと本心を語る。

「水渚(みなぎさ)……」
「今の私はあの頃のミナギサではなくてミギワだよ。栞ちゃん」

 流れていく時の中で
 記憶を手繰り寄せる

 よみがえるのは
 戻らない日々
 あの時の日々――


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