零の旋律 | ナノ

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 一人の腕を爪で切り裂く。けれど、痛覚を感じてないのか。何の素振りも相手は見せない。それどころかその腕はすぐさま再生した。いくら切り裂けどもすぐに元に戻っていく――繰り返す。終わりなき回廊。

「……こいつら」
「これが私たちの長年の成果だ。これが私たちの研究結果だ。ただ過程で心が壊れてしまうのが難点だが、命令だけはきいてくれるよ」

 嬉々として答える研究者。そこに喜びはあれど歓喜はあれど罪悪感は存在しなかった。

「ふざけんじゃねぇ」

 遊月は研究者を殺そうと爪を伸ばす。けれどそれを庇ったのは彼らの一人。
 身体に遊月の爪が突き刺さろうとも表情一つ変えない。そして。それが深く刺さっていくのも構わずに遊月に向かっていく。

「ちぃ」

 遊月は爪を元の長さに戻す。彼は一瞬だけバランスを崩したがすぐに怪我の位置は再生してそのまま突撃してくる。
 榴華の方も苦戦しているようだった。いくら紫電のかまそうとも一向に倒れる様子を見せないのだから。篝火も応対しているが、やはりいくら攻撃を加えようとも再生する相手。
 長引けばどちらが不利か等、明明白白。

「おい、どうするんだ」

 篝火が叫ぶ。けれど返答はない。皆判断を決めかねている。
 その時朧埼の表情が一変した。何か、何かを見つけた――心の中に眠る記憶。思い出したくない記憶。

「姉さん……っ」
「なんだ?」
「お、俺あの……あの、今遊月と戦っている男っみたことある……」

 炬奈の目の色が変わる。朧埼の身体は僅かに震えている。
 朧埼が見たことあるといった。それはつまり――

「で、でも。何か変……半分辺りで半分正解みたいな、変な感じがするんだ」
「わかった」

 炬奈は確信した。自分たちの一族を襲った賊の一人であることを。けれど、今の状態の彼を見て何を思うか。何も思えなかった。怒りも憎しみも。
 それだけ彼が無だということ。

「私たちの相手は一人や二人ではない。だが、一人だけは見つけたということか」

 この研究の先、此処にあるものを突き止めれば、自分たちの復讐相手に辿り着ける。炬奈はそう確信した。
 唯乃は主を守ろうと、主の傍にやってくる彼らを相手する。唯乃の戦闘能力の高さは折り紙つきだ。
 怪我一つおっていない。髪の毛を自在に変形して戦う。その様子に研究者の一人、一番奥にいた眼鏡をかけた少し小太りの男が叫んだ。

「そこの女性はもしかして人形か!?」

 好奇心と興奮があるのだろう、鼻息が荒い。

「えぇ、そうですよ。けれどそれが何だというのですか」

 唯乃は淡泊に答える。

「人形が、この地にいるなんて一体どういうことだ!? 手に入ったのか!?」
「わけのわからないことを一人で口走らないでください。貴方達下衆に私は用事等ありませんから。いえ訂正ですね。私は貴方達を殺すという目的があります」

 用事はなくとも目的はある。

「ですので不要なお喋りは厳禁ですよ」


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