零の旋律 | ナノ

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「誰かいるぞ」
「わかっているよん、さぁ進みましょか」

 榴華が炬奈の前に出る。不意打ちで襲ってこられた場合、自分が前に出ていた方が反応出来るだろうとの判断の元。炬奈も意図はすぐに理解して何も言わない。
 扉がある。今にも崩壊しそうな脆い。けれど施錠されていた。

「篝火はん」
「はいはい」

 出番なのは元泥棒篝火。ピッキング技術であっさり開ける。

「古い簡単なタイプだから結構誰でも開けられると思うよ」

 専門は複雑な方らしい。
 扉を開けると、今までの暗闇が一転眩しく光る。
 その眩しさは暗闇を進んでいたものには眩しすぎて目を細めてしまう。
 光に慣れる前に声が、驚きの声が聞こえる。

「何者だ!!」
「第一の街支配者榴華だ」

 榴華は光に顔を顰めながらも答える。光が強くて人物像がはっきりと映らない。
 少しして目が慣れてくると人物像もはっきりと映る。

「ただの探検やったんけれど、ここってどういう場所?」

 第一の街支配者――そう名乗れば通じると思った榴華は代表して会話する。一番会話が進むだろうと誰も口を挟まない。遊月ははやる気持ちを抑える。此処の建物にあるとそう確信する。ならない鼓動が高鳴るような錯覚に陥る。
 そこにいた人間は十二人。しかし大半は虚ろな瞳で此処に心がないような存在。
 研究者風情な人間は男が三人。

「……なんかすっごくマトモじゃないことしている気がするんは気のせい?」
「……別に、罪人が何をしようと関係ないと思うけれど」
「罪人の名をつけた免罪符ってことろかねん」

 榴華は軽口をたたきながらも徐々に目が細くなっていく。

「なんとでもいえばいいさ。本来此処には誰もやってこないはずなのだがな」
「まぁ色々あったんよ」

 榴華は水渚に案内されたことは言わない。案内はされたが進むか否かを選んだのは自分たちだから。水渚が彼らの仲間とは到底思っていないし一片も信じていない。

「……そうか、やれ」

 他言無用。目撃者には死あるのみか、研究者の一人が命令する。
 おぼろげな瞳、心ここにあらずな彼らは一斉に動いた。人数は九人。そのどれもがぼろい灰色の服を身に纏っている。年齢は十代から二十代中ごろまでといったところだろうか。

「わー、短気やね」

 軽口をたたきながらも榴華も戦闘態勢に入る。素早い動きであっという間に間を詰めてくる彼ら。
 榴華は軽やかに変わす。炬奈は手を横にやって朧埼に下がるように命じる。槍を手に、相手の方を向くが何も感じない。恐怖も殺意も喜怒哀楽も。何も感じない。何も見ていない。此処にいて存在していない――。

「なんだこいつら……」

 一人が飛びついてくる。炬奈は槍で防ぐ。ただ命令を遂行するだけの彼ら。槍で振り払う。けれど着地したらすぐさま飛びついてくる。武器は所持していない。けれど動きは身軽で、一つ一つの攻撃は重い。炬奈は僅かに後ずさりする。

「……まだ、こんな下らねぇことを続けていたのか」

 遊月は拳を強く握り占める。そして手の平を開く。遊月も動いた。爪を自在に伸ばし彼らを相対する。


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