零の旋律 | ナノ

第五話:廃墟の地


 廃墟の中を進んでいくと何か音が響く。それは生命の音かそれとも機会の音か。見た目より中は広々としていて、声を極力反響させないように小声で話しながら進む。
 幸いなことに建物の構造上か、音は殆ど反響しない。
 一体何の目的でこの場所が存在しているのか、此処にはどれ程の罪人が存在するのか。唯乃は気配を探ろうとするが、異様な何かがたちこめて正確に判断することは出来なかった。人を惑わすような何か。

「自分こんな場所あるなんて知らんかったよ」

 それが榴華の素直な答え。榴華もこの間この崩落の街にはやってきた、まだ壊れていない建物の中に入った。けれど此処の存在は知らなかった。
 そもそも榴華が単独で、柚霧を連れないでこんな日数を歩き回る方がおかしなことだったのだ。

「柚霧は今何処にいるんだ?」

 篝火は疑問に思い榴華に問う。
 柚霧は第一の街榴華の秘書的存在にして、榴華が一番大切にしている存在。柚霧のためなら。文字通り榴華はなんでもする。

「雛ちゃんところに預けてきてるよん」
「成程。それは安全だ」
「でしょん」

 口では軽い調子で言いながらも。榴華自身は柚霧のことが心配でならない。一刻も早く会いたい。抱きしめたい。

「皆大切な存在のために、動くのですね」

 唯乃が苦笑する。唯乃自身は主の為に動く。だからこその言葉だ。
 徐々に明りが失われていく。元々建物内に入ってから薄暗かったが、その薄暗さはさらに度を増していき、暗闇に近くなる。廊下に明りはない。下手に明りをともすわけにもいかず、暗い中を進んでいく。

「いで」

 榴華が壁にぶつかる。額を打ったようで頭を押さえている。

「何をしているんだ」
「いやー自分なんかこう隠密行動みたいなん苦手やわ」
「私が先頭を歩こう」

 炬奈が前に出る。

「おや、自分暗闇得意?」
「私にとって暗闇だろうが、晴天だろうが関係ないからな。……まぁ暗闇の方が都合はいい」

 そういって歩き始める動きに一切の迷いはない。榴華は素直に感心する。といっても殆ど暗闇のせいで見えないのだが。

「どうした? 早くいこーよ」

 歩きを止めている遊月に朧埼が不機嫌そうに声をかける。姉が先導しているのに中々遊月が歩きださないからだ。

「いや、なんかすごく光あるところと変わらなく動くなと思って」
「姉さんには関係ないんだよ。光なんてね」

 朧埼は遊月を待たずに歩き出す。急いで姉の元に向かいたい心境だったが、下手に慣れていない暗闇の中で走り出すことも出来ず、渋々諦める。
 そして篝火も飄々と歩く姿に榴華はため息一つ。

「なんや、自分も暗闇得意なん?」
「そりゃ、元泥棒ですから。その辺のスキルは所持したまんまさ」

 炬奈の後ろを歩きながら篝火が答える。

「じゃあ、自分も泥棒やろうかなぁ……」
「榴華には無理だ」
「やっぱり?」
「細かい作業していると苛々して大事にしそうだしな」

 違いないといって榴華は苦笑する。
 暫くして、行き止まりになる。しかしその横から風が吹いていることに気がつき炬奈は曲がる。
 何か人の気配がする――


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