零の旋律 | ナノ

Y


 十分程度歩いたところで目的地に到着する。その建物も他と同様古びていた。周辺は砂が支配している。しかし他の建物とは違い、何処か人を寄せ付けない雰囲気を漂わせているものも、脆く壊れる、といった印象を与えない。それが視界に広がった時水渚は足をとめた。

「何故進まない?」
「私は此処から先進みたくないのだよ。だからこれ以上進むというのなら勝手に。此処までたどり着ければ後は君たちで勝手に出来るでしょ?」
「あぁ」
「それと篝火と、そこの少年少女は此処から先に進まないで待機することをお勧めするよ」

 水渚が忠告した。それはどういうことだろうか、首を傾げる。

「此処から先は命の保証なんて何もされない場所だ。死地だ。だから、彼と違うのなら一緒に行動を共にする必要はないということ。まぁ死に急ぎたいというのなら別だけど」
「罪人が此処から先にいるということか?」

 それも水渚が行きたくない。元第一の街支配者が足踏みするような罪人が存在しているのか。

「君ならわかるはずだけど?」

 遊月に向けて話す。それが何を意味するのか痛いほど理解できた。
 何も自分だけではない。心臓なくて今も生きている存在は。此処には、それらがいるというこか言葉にしないで水渚の方に視線を寄せる。

「多分君の想像通りのはずだよ。でもそれでも君とは違う。別の存在と考えても支障はないと思うけれどね。まぁ私にとってはどうでもいいことだけれど。あぁ普通の罪人も中にはいるよ」

 それだけの危険性を秘めたる建物ということかと。遊月は気を引き締める。

「ってチョイ待ちい、自分はどうでもいいん!?」

 止められなかった榴華が抗議をする。水渚は鼻で笑う。

「何を、言っているんだ。榴華。君は心配するような次元のレベルじゃないだろうが。君なら無事に生きていられるよ」
「さいですか」
「あぁ。君は戦闘能力に関しては罪人の牢獄最強とも言われる程だからね。その辺に関しては認めているよ。もっとも君がそのフザケタ態度のままで行くというのなら命の保証はしないけれど、馬鹿ではないだろう君は」

 嘲るような挑発するような、けれど淡々告げる水渚に榴華は毒毛を抜かれっぱなしだった。

「なんというかなぁ。全くなんともいえんよ。まぁ昔に比べたら落ち着いたってところかいな?」
「昔ね、私にとってそれは今と同じことだよ。あの日からね」
「まっええけど、あんまりサクリンを心配させるじゃないよん」
「……」

 水渚は何も答えない。

「さぁ、いくといいよ。命が惜しくないなら。命を賭けても求めるものがあるのなら」

 遊月は歩を進める。手に入れるために、一度は罪人の牢獄を後にした。逃げた。現実から。けれど結局逃げきれなくて、戻ってきた。今度は進むために。
 唯乃は主に付き添う。空中から降りてきて。主に寄り添うように。全ては主の願いを、目的を叶える為に。その為に唯乃はこの大地にやってきた。

「……まぁ此処まで付き合ったのなら自分も付き合うしかないよなぁ……それにまだ自分は見極めていないんからね」
「榴華、君の目的は二人を抹殺することじゃないのかい? いいのかい君はそのまま二人に付き添って」

 水渚が小声でささやく。榴華のそれに対しての返答は――笑みだった。

「わからないやつだ」

 篝火は一瞬だけ躊躇した。けれど遊月達の後に続いた。此処まで付き合っておいて今さらさようならをするつもりはない。炬奈と朧埼はこの異様な空気に圧倒されそうになりながら、それでも進まない道は選ばなかった。可能性がある限り進む。
 今さら何を失うというのか――と。

「そう、それが君たち全員の答えなんだね」

 水渚は一笑した。


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