X 「栞ちゃん――」 水渚が懐かしそうな、それでいて悲痛な表情を浮かべる。 「なんで自分きているん? ここにはきたくなかったんやないの?」 榴華が疑問をぶつける。栞は飄々とした態度を崩さずに答える。 「そりゃあ、そうだけれど。水渚を殺すつもりで戦われちゃうと俺だってやってきちゃうよ」 つまり水渚の味方だということ。 「栞ちゃん。何故君が此処に来ているの? どういうことだい」 水渚が栞に対しては感情的な側面を見せる。 「まぁ色々暗躍中。見せてあげればいいじゃない。ネオの目的の品を。あるんでしょ?」 対する栞は常に笑みを浮かべて本心を悟らせない。どれが偽りでどれが本心か。 「……わかったよ。ついてくる? それとも信用できないってなら殺しても構わないけれど」 栞の雰囲気が一瞬だけ変わる。水渚の投げ槍の言葉に対してだ。 遊月は一瞬だけ躊躇したが、可能性は捨てない。 「わかったよ。着いていく。それに信用出来るか信頼できるかわからないからって殺すほど安直な人間なつもりはない」 「そう。栞ちゃんはまた消えるのかな?」 「うん。そうだねそれじゃあ」 言い終わると同時に栞の姿は闇に消えた。 一体何が起きたのだろうかと朧埼は目をこすってみるが、何も変わらない。 そんな様子に水渚は気にも留めず歩き出す。 「こっちだよ。ついてこなくて迷子になっても私は別に知らないから」 サクサク歩き出す。後ろを振り返らない。遊月たちは慌てて歩き出す。唯乃はそのまま空中から降りてくる気配はない。同じような景色が続く。廃墟と砂が続く。 一体いつ崩落したのだろうか。建物として形が保たれているのも若干ながらあるものの、好き好んで入りたくない場所。少しの衝撃で崩れ去ってしまいそうな。 「迷子になりそ」 篝火は方向音痴ではない。むしろその逆だが、こうも同じような風景ばかり続くとそんな風に思ってしまう。 「迷子になったら死ぬだけだから」 聞こえていたのだろう、その呟きに水渚が反応した。 「それ。嬉しくない」 「だろうね……まぁ、私は迷っても死なないけど」 「どういう意味だ?」 「別に。私はこの大地の、砂の毒は効かないから。餓死とかならありそうだけど」 滅多に帰宅していない様子の部屋の中を見れば、いくらかの食材等を持ちだして何処かを根城にしていても不思議ではない。 だが遊月が疑問に感じたのは毒が効かないこと。 「どういうことだ、砂の毒がきかないってのは」 「そのままの意味だけど? 私のことを深く語るつもりはお生憎様ないね。その辺の想像はご勝手に」 栞の時に見せた感情的な声とは違い、再び淡泊なものだった。 「……なんだこの扱いの差」 少しだけ、ほんの少しだけ思ってしまう遊月であった。 [*前] | [次#] TOP |