零の旋律 | ナノ

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「わからないのなら。わかるまで待っていても遅くはないと思うぞ。遊月達が水渚を殺そうとしたときに止めるのか、それともあいつらに加勢するのか」
「そうかな?」
「あぁ。少なくとも私はそう思う。いくらあの水渚という奴が強くても三人がかりでは分が悪いだろう。それに榴華に至ってはあいつと同じ第一の街の支配者同士なのだろう」
「あぁ」

 篝火はその場に踏み留まることにした。まだ結論が出ない。
 あの時のように、二年前のように、四年前のように大切な人を失いたくない。

「大切だからこそ、躊躇するものさ」

 炬奈はそう締めくくる。槍は手放さない。此方側にまで水渚が攻撃を仕掛けてくる様子はなかったが、いざという時は、身を呈して朧埼を守るために。
 どちらが優勢かと問われればそれは遊月たちだろう。目的がある遊月と目的なき水渚。信念の強さが違った。それに三対一人数の上でも遊月たちが有利。卑怯だとかは一切思わないし水渚もそう感じない。確実に敵を倒す為に、態々一対一を求める必要性等何処にもない。確実に相手を仕留める方法でいくだけ。下手なプライドを持っていてそれで目的を達成できなければ何の意味もなさない。
 それこそ無駄死にするだけ。

 沫は動く。そこに意思があるように。水渚の周りには常に一定量の沫が防御壁として残る。それ以外は全て攻撃に廻る。爆発しては増える。しかしその沫は最初ほどの個数ではなくなっていった。榴華が沫を焼き尽くすからだ。
 遊月は爪の長さを自由自在に変形させながら隙間を見つけて水渚に攻撃を仕掛ける。
 けれど水渚とて沫にだけ頼っているわけではない。軽やかな足取りで確実に交わす。唯乃は空中から隙を伺い攻撃に転じる時と思えばすぐに髪の毛を無数の槍と化し降らせる。
 それは沫を貫き水渚に向かう。
 沫の防御壁もそこではあまり効果をなさなかった。水渚は沫を態と爆発して、周囲に水分を分散させる。そして新たな他の沫より巨大な沫をすぐに作り上げる、それは低反発性を持ち、鋭い槍を跳ね返す。
 その下に水渚は隠れる。休息する時間はない、すぐに遊月の爪が迫ってくる。沫はいくら作りだそうとも榴華の紫電で全て焼き焦げる。

「……流石だね。君たちやっぱり強いね」

 それでも焦る様子を一切水渚は見せない。何か秘策があるのかないのか。

「でも――って何故そこにいるの?」

 水渚の声色に疑問がつく。人らしい感情をそこで初めて見せる。
 油断させるために戦法ではない。そう判断した遊月たちは一旦動きを止める。
 後方に一人悠然と立つ。今の今まで気配を感じなかった――突如という言葉が似合いすぎる程に突如として現れた。


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