零の旋律 | ナノ

V


 いつまでも一緒だと思った
 いつまでも一緒に笑っていたかった

 けれど

 それが手の届かない場所に行ってしまったのなら――
 何のために今此処に存在する


「さぁ、どうするんだい?」

 遊月は答えを決める。是から先――敵になる可能性があるのなら、自らの目的のために、何人を殺そうとも――後悔はしない。

「それが答えだね」

 遊月の殺気と視線に水渚は答える。

「じゃあ、私を殺すといい。それとも君は私を生かすかな? もし私を生かす等という方法を取ったのなら私は君たちに君の目的地まで案内してあげようじゃないか」

 笑った。その時初めて声に色がついた――そんな錯覚に陥る。そしてその時遊月は理解した。本当に、この人物は死のうが生きようが、勝とうが負けようが、勝利しようが敗北しようが、殺されようが殺そうが構わないのだと。どちらに転ぼうが結局同じだと考えていることに。

 唯乃に視線を送る。唯乃は頷いた。そのまま高い跳躍をして、沫がないところまで飛ぶ。
 普段なら驚きを見せるはずの行動でも、水渚は特に驚きを示さなかった。興味ない。そんな風。

「ふうん。君は面白いね」

 沫が無数に弾ける。そして新たな沫を作りだす。増殖し続ける沫。
 それは崩御壁であり攻撃の要。
 唯乃に向かって沫は現れる。沫は弾ける。爆発する。
 一つ一つの威力は小さくとも、無数に爆発すればそれは威力を誇る。
 唯乃は髪の毛を翼に変え宙を飛ぶ。
 沫を全て交わす。縦横無尽に駆け巡り。しかし沫の防御壁が水渚の周り包み込んでいる以上、一定以上の距離は近づけない。
 遊月は爪を伸ばし水渚に切りかかる。遊月の爪は沫の間をかいくぐり水渚に近づくが、水渚はそれを軽やかな動きで交わす。
 沫を遊月の前で弾ける。
 咄嗟に顔面を覆い隠す。服が僅かに破けた。
 沫は増え続ける――。

「手伝いますっか」

 榴華の周りを紫電が包み込む。紫電を纏った榴華は水渚に沫に近づいく。沫を紫電の力で相殺していく。けれどすぐに沫は個数を増やして現れる。

「どくんや」

 発光がより一層強くなる――周囲一帯を榴華の紫電が焼き尽くす。

「ちょ、マジ?」

 その時、ようやっと水渚の目に驚愕が現れる。まさか一瞬で無数の沫を焼き尽くされるとは想像していなかったからだ。
 まだ水渚の周辺を守っている防御壁な沫はあるものの、攻撃に回していた沫は今の一撃で殆ど失った。

「流石、第一の街支配者」

 それでも抑揚はない。どちらにしろ同じだと考えているから。どうでもいいと思っているから。
 失ってから、何もしたくなかった――。生きていても会えないなら、死んでも同じ。


「お前らは?」
「私と朧埼が加勢したところで足手まといになるだけだ。そういうお前は加勢しないのか?」

 首を横に振る。行くだけ足手まといになると、そして逆に炬奈は問いかける。
 篝火は未だ迷っているように見えた。一歩踏み出そうとしては戻るの繰り返し。

「水渚のことは一時だけど知っているんだ。だからちょっとな」
「敵か、判断を迷っているということか?」
「そういうわけじゃないんだけど。あの時という今といい、どうしてあいつはあそこまで自暴自棄なんだろうと思って」
「確かに。あいつには何も信念が感じられない。自暴自棄だな」

 炬奈は同意する。言葉の端はしから読み取れる水渚の自暴自棄さを。
 一体何がそうしたのか。けれど炬奈にとってそれはどうでもいいことだった。あくまで目的は自分たちの復讐相手を探し出すこと。此処にその手掛かりの可能性が零ではないこと。それだけ。余計なことにまで手を出して、自分の目的を達成できなくなるわけにはいかない。二兎追って両方失うわけにはいかない。
 ならば正確に一兎だけ追う。

「だから、俺はどうするべきかってな」

 篝火の目的は此処にはない。彼彼女らと行動を共にしただけ。
 泉の知り合いだという二人の手伝いをしたいだけ。


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