U 「だから、君たちが何をするのか。明確な目的が分からない限り私は此処を通したくはないわけ。来訪者が今さら姿を現すとは思わなかったけれど。榴華単品なら、私だって放っておいたよ。私だって四六時中此処にいるわけじゃないからね」 水渚の周辺に沫が無数に現れる。それは榴華の前に現れた沫とは比べ物にならない量だ。それらは小さな爆発を繰り返して徐々に増殖していく。 「げぇ、全く水渚っちとは自分やりあいたくないよん」 「誰だあいつは」 遊月が問う。 すでに臨戦体形だが、まだ様子見の段階。 「元第一の街支配者よん」 呑気に答える。事も何気に、あっさりと。 「……マジで?」 元第三の街支配者に続き、元第一の街支配者までもが生き残っている、その事実に驚きを隠せない。 「大真面目。水渚っちは数年前まで第一の街の支配者だった人物よん。だーから、強いで」 ため息一つ。それは炬奈のものだった。行く先々スムーズに進まない。最初からスムーズに進むと思ってこの地には来ていない。しかし現れる罪人は皆、何処かけた違いだった。 想像をはるかに絶する罪人達。それが当たり前ではない。そんな存在は一握りだろう。 けれど、その一握りの存在に遭遇する。日ごろの行いが悪いのだろうかと考え始める程。 炬奈は槍を構えながら様子を伺う。場合によっては、榴華と遊月、唯乃、篝火に戦闘面は任せて自分は朧埼を守ることに専念しようと。 「俺は。俺の目的の――ある品がこの場所にあるかもしれない。それを探しに来ただけだ」 遊月は答えるこの街にやってきた目的を。 「ふうん。その目的の品って何?」 「……俺の心臓」 目的の品が何かを初めて聞く榴華、炬奈、朧埼は驚愕する。けれどそれには構わず遊月は続ける。隠してきたつもりはないし、いずれにしろ目的の品がなにであるか何時かは判明する。 「それを探しに、取り戻しに来ただけだ」 「そう、じゃあ君がそれってわけか。成程ね」 水渚は一人何かを納得する。 「ならば、君の探し物は此処にあるよ。けれどそれを君が手にすることは叶わないだろうね」 「それはお前が俺たちの敵に回る。といことか?」 慎重に尋ねる遊月の爪は僅かに伸びていた。 「いいや、違うよ。私ではない。私はそんなことに興味はないからね。けれど――まぁ場合によっては敵に回るよ。もしも私が是から先敵に回る危険性を危惧するならば、今此処で私を打ち負かしておくことをお勧めするよ」 それは自信か。負けないという。それとも負けても構わないという心情の表れか。 生きているなら生きている、けれど死を避けているわけでもない、そんな状態か――。 [*前] | [次#] TOP |