零の旋律 | ナノ

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「そういうことよん。実際のところあれの目的はわからんのやから」
「よく、わからない存在につき従うことを決めたな。第一の街の支配者とはそういうことだろう?」
「雛ちゃん辺りなら何か知っているやろーけどね。まぁ自分は別にいいんよ、柚と一緒にいれたら、柚がそこで笑ってくれるなら、相手が得体のしれない化け物でもねん」

 度々榴華の口から出てくる柚を遊月は知らない。しかし言葉の端々から、柚はとても大切な人だと実感出来る。守りたい存在の為に、守りたい存在を守るために第一の街支配者として君臨したのだろう。

「それだけよん」

 軽く笑って受け流す榴華に、見透かされたくない心があると遊月は判断する。
 崩落の街を彷徨う。
 ある程度進んだ所で、視界に一人の人物が映る。遊月達から見て左側方面にしゃがみ、地面に手を当て何かを調べている。露草色の髪は毛先にいくほど白みが強くなっている髪はギリギリ地面につかない。砂色の帽子を被っていて表情を伺い知ることは出来ない。

「あれは――水渚(みぎわ)」
「なんで此処に」

 その人物に見覚えがあった篝火と榴華は少なからず驚く。

「水渚って、俺たちが寝泊まりを勝手にしていたところの……」
「まさかこのような場所で出会いますとは」

 水渚も此方の存在に気がつき、立ち上がり遊月たちを白灰色の瞳で見る。

「このような場所に何のようだい?」

 感情の抑揚を感じさせない声色。

「んーちょっと色々と探し物がありましてねーん。そういう水渚っちことなんでこんな場所にいるん?」
「別に。なんとなくだよ。此処は誰も人気がいなくて、煩わしくないからね」
「そんな理由で普通こないっしょね……ん。まぁええわ。自分らこの先に用がるんで失礼しますわ―」

 しかし榴華の前に沫が浮かび、榴華は歩もうとした足を止める。

「どういうことやねん? 水渚っち」
「別に。特に理由という理由はないんだけど。この崩落の街に用があるとはとても思えないだけ」

 相変わらず抑揚のない淡々とした口調で水渚は話す。

「まぁ用があるんは自分やないし。それとも水渚っちはこの先に足を踏み入れられたら困るものでもあるんかいな?」

 含みを持たせる榴華に水渚は特に反応を示さない。

「だから、別にっているっているけど。……まぁしいて言うなら、この空間を壊すことは許さないって程度」
「どういうことや? 壊すも壊さないもすでに壊れているんやん」
「そうだね。此処はすでに壊れているそれは私も認める。けれど――此処は想い出の場所だよ」
「意味がわからんよ」

 水渚が何を言いたいのか。此処には何があるのか、どんな思いでが存在しているのか。

「思いだしたくもない想い出、だけどね」

 最後に水渚そう付け加えた。


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