零の旋律 | ナノ

第四話:崩落した街


 明朝、彼彼女らは動く。自らの目的のため、目的を見定める為、可能性を探す為
 其々の目的は違えど、共に進む。
 崩落の街は最果ての街東の地から。北東の方に進んでいく。通常の方位磁石のきかないこの地で榴華は己の記憶している道順で進んでいく。
 砂の毒がまとわりつく。
 暫く歩いたところで、コンクリートが視界に映る。それは廃墟。建物は悉く崩壊し、辛うじて形成を保っているものも、僅かな衝撃で壊れてしまいそうなほど脆い。

「こんなところにお前の目的の品あるのか?」

 篝火が疑念の声を上げる。何もない。壊れた崩落した場所で、遊月の目的のものがあるとは信じ難かった。
 榴華以外の者にとっては初めて訪れる場所。存在そのものすら知らなかった地。
 それは意図的に隠されたものか、それとも誰も求めなかったからか。
 この罪人の牢獄での街の役割は大きい。生命線でもある。
 けれど崩落した街には毒の砂あり、大地の腐敗している。生きていく術は殆どない。そんな場所を知ろうと思うものもいなかったのだろう。だからこそ、殆どの者が知らない場所と化していた。
 崩落してからどれだけの月日がたったのだろうか、脆く砂に浸食されている。
 空洞。空虚。

「……何だろうな、この嫌か空気」
「姉さん……。確かに淀んだような。なんともいえない場所だね」
「あぁ」

 炬奈はこの空気に様々な邪念が混じったようなものに何とも言えない恐怖を覚えていた。それは炬奈だけではない、この地に初めて訪れるものが感じるもの。
 異様な異種な妖気欲望生死邪念邪悪邪気交わる。

「長居したくねぇ場所だな」

 ぼそりと遊月は呟く。独り言だったが、唯乃が静かに同意した。
 何か肌寒い。この罪人の牢獄に四季はない。けれどこの場所だけ空気が異様に冷えたような、そんな微弱な気温の変化を唯乃は感じ取った。

「……此処は一体何のですか」

 この場所を唯一知っていた榴華に唯乃は話しかける。肌寒さを少しでも減らすように腕を握る。

「崩落した街。嘗て街になる予定だった場所よーん。存在出来んかった第四の街、いや一時だけは存在したんかな」
「四……」
「そう。最初の街の最終地点、みたいな感じで存在する予定やったん。けれどまぁ結果は見ての通り失敗。いや、成功なのかもしれないけれどなん」
「成功かもしれないというのは?」

 この現状はどう見ても、何処をどう見渡しても成功したとは言い難い。街として機能などしていない。

「さぁ、自分はそこまで詳しゅうないからなん。けれども――“あれ”が失敗する計画を立てるとは思えんのよ」
「……それは確かに一理あるな」

 遊月が同意する。あれ――罪人の牢獄支配者が作った街が、失敗して廃墟と化した。そこに違和感が残る。失敗するものを、罪人の牢獄支配者が作るのか。本当に失敗した可能性も無きにしも非ず。
 けれど遊月はこう考える。意図的に失敗するように仕向けたと、この街が街として機能しない場所として存在させようとしたならば、それは失敗ではなく成功だ。
 どんな意図があったのか遊月には計り知れない。榴華も同様の事を思っているのだろう、疑惑を。
 だからこそ失敗か成功か判断がつけられない場所。


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