Y 「……わかったんよ。なら自分が案内してやるわ」 渋々、といったところだろうか榴華は承諾した。 「私と朧埼もその地に向かってみたいのだが、構わないだろうか」 炬奈が口を開く。炬奈は少しでも可能性のある場所なら何処だって赴きたかった。 「あぁ、別に俺は鎌わねぇよ。命の保証はしないけれど」 「この罪人の牢獄にきた時点で命の保証等されていないさ」 肩をすくめる。それもそうだと遊月は同意した。罪人の牢獄は罪人の集まる場所。目的は決まった。明朝崩落の街へ。 「俺もついてい……」 朔夜がついていく。そういおうとしたとき、背後に栞が廻り込み気絶させた。倒れそうになるのを栞は支える。 「栞何を?」 怪訝そうに篝火が尋ねる。あの時確かに朔を連れていくことは許さないと言っていた、しかし、このような手段に出るとは予想していなかった。 「さっきも言った通り、朔をあそこには連れて行きたくないんだ。だから朔は此処までってことで」 「その理由は?」 「理由は御免、答えたくないかな。でも連れて行きたくないんだよ。篝火は好きにしてもいいよ」 「……わかった。俺はいくさ」 朔夜は栞に任せて、篝火はついていく方を選んだ。 栞が何故朔夜を崩落の街に連れて行きたくないのかは謎のままだった。そこに何の理由があって。どんな意味があるのか。けれど問い詰めたところで栞は笑って誤魔化すだけだろう。決して本心は語らない。 「じゃあ、今日は素直に休みなよ。俺は朔を別の場所に連れていくから、じゃあね」 栞はその場を離れた。朔夜を抱きかかえながら。 +++ 彼彼女らと別れた栞は最果ての街を歩く。朔夜が目を覚める前に栞はある場所までたどり着く。それは最果ての街の終わり。他の建物よりも壮大な建物が目の前にある。 蒼い炎が揺らめく。幻想的雰囲気を醸し出す。建物は白い。 扉を開けて中に入る。鍵はかかっていない。否この場所は鍵の必要性がない。最果ての街の異色の中に入る。そこには二人の男女がいた。一人は嬉々として短剣を眺めている。その短剣には鮮血が。 「梓、また銀髪をさしたの?」 艶やかな紫かかった黒髪と、髪色と同じ瞳を持つ女性――梓に栞は話しかける。最果ての街支配者。 「きゃはははっ、だってぇ。血が見たかったんですものぉ」 無邪気な笑みと狂気の笑みを見せる。 まるで、他の笑み等知らないような―― 「銀髪はそこでぶっ倒れているわけか。唯乃に刺された時は無表情なのに梓には叶わないんだねぇ」 おかしそうに栞は笑う。銀髪は床で疲れたのか倒れていた。すぐに身体を起こす。傷口等ない。けれど梓の短剣にこびりつく“血”は間違いなく銀髪のものであった。 「朔夜を連れてどうしたの?」 「ん? あぁ。榴華たちがさぁ、明日崩落の街に行くみたいだからさ。朔を此処に預けておこうと思ってね」 勝手知ったる場所なのか朔夜を連れて栞は別の部屋に移動する。そこにあったベッドの上に朔夜を寝かせる。タオルケットも風邪をひかないように掛ける。 「成程ね。朔夜をあの場所には連れて行きたくないわけか」 「そういうこと。あそこは――ね、想い出の場所であり、忘れたい場所でもある、だから朔には思い出さないでほしい」 「まぁわかったよ。朔夜は此処で預かるよ。梓が住まうこの場所に態々手を出してくる不埒な輩はいないからね」 最果ての街の住民は梓を崇拝するか恐怖するかの二択。たまに例外は存在するが。それでも梓の影響力はこの街では大きい。誰も梓に逆らおうとは考えない。 例えば榴華なら、反逆を起こすものもいる。けれど梓の前にそういう輩が姿を現すことなどほぼない。無意味にして不可能。 最初から希望すらなければ、反乱は起きない。僅かな希望があるからこそその希望に縋るのだとすれば、最初から希望が存在しない場所になら。反乱をおこす意味等ない。 「栞はどうするのだい?」 「さぁ。俺はまだ見極めていないから。見極めてから、だね」 栞は朗らかに笑う。 「そうか、とりあえず今日は此処で休んで行ったら?」 「うん。そうするよ」 [*前] | [次#] TOP |