X 「何故っていわれても、あそこは近づきたくないんだよー。案内なら榴華とかにでも頼んだら? 榴華なら場所知っているし。あぁ、でも――」 拳銃を遊月に向ける。唯乃はすぐさま遊月の前に立つ。 「朔を崩落の街に連れていくことは許さないよ」 「……何故、お前はいつも明確な理由を言わなさすぎる。何を秘密にしておきたい、何に関わり会いたくない」 「罪人の牢獄から離れた君にそれを伝える必要は何処にもないよ」 「それを言われたらそうだけれどな」 危険が伴う場所か、遊月はそう判断する。栞と朔夜は昔と今も変わらず親友同士。 栞は朔夜を危険な目にはあわせたくない、死の危険性が伴う場所には踏み込ませたくない。そんな思いが伝わってくるようだった。 「一旦榴華たちと合流しよう」 遊月はそうとだけ告げた。篝火は何も言わず同意した。 踏み込んだ先が 闇か 奈落しかないなら 踏み入れた先が希望に満ちていなくても それでも可能性が零ではないと信じて 信じて信じて信じて そうして信じられなくなって 逃げた。 闇から奈落から逃げた。走って走って、地平線を走った。 終わりの見えない回廊をひたすら 後を振り向かずに 逃避した。 結局逃げきれなくて、また戻ってきた。 榴華たちと合流出来たのは夕方になってからだった。 再び水渚の自宅で勝手に休息を取る。水渚は留守だった。 「で、俺たちは崩落の街に向かいたいんだ。榴華案内願えるか?」 遊月は食事に手をつけながら本題を話す。栞には断られた。そうなると唯一の希望は榴華だけだった。 「崩落の街ねぇ、あんな街に行って何があるってん?」 「銀髪の、罪人の牢獄支配者の話だと、俺の探し物はそこにあるらしいんだ」 「あれの、話を自分はホンマに信じているん?」 榴華の問い。それは遊月自身が何度も自問自答したこと。 銀髪は罪人の牢獄支配者。その者の言い分を完璧に信じ切っていいのだろうかと。 けれど、遊月は頷いた。この牢獄に来てからやっと掴んだ手掛かり。それをみすみす手放すわけにはいかなかった。それがこの先何を待ち受けていようとも。 その為に、力をつけて、再びこの地に足を踏み入れたのだから。もう戻れなくても、もうあちらの土を踏めなかったとしても。 [*前] | [次#] TOP |