零の旋律 | ナノ

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「何故っていわれても、あそこは近づきたくないんだよー。案内なら榴華とかにでも頼んだら? 榴華なら場所知っているし。あぁ、でも――」

 拳銃を遊月に向ける。唯乃はすぐさま遊月の前に立つ。

「朔を崩落の街に連れていくことは許さないよ」
「……何故、お前はいつも明確な理由を言わなさすぎる。何を秘密にしておきたい、何に関わり会いたくない」
「罪人の牢獄から離れた君にそれを伝える必要は何処にもないよ」
「それを言われたらそうだけれどな」

 危険が伴う場所か、遊月はそう判断する。栞と朔夜は昔と今も変わらず親友同士。
 栞は朔夜を危険な目にはあわせたくない、死の危険性が伴う場所には踏み込ませたくない。そんな思いが伝わってくるようだった。

「一旦榴華たちと合流しよう」

 遊月はそうとだけ告げた。篝火は何も言わず同意した。



 踏み込んだ先が
 闇か
 奈落しかないなら
 踏み入れた先が希望に満ちていなくても
 それでも可能性が零ではないと信じて

 信じて信じて信じて
 そうして信じられなくなって

 逃げた。

 闇から奈落から逃げた。走って走って、地平線を走った。
 終わりの見えない回廊をひたすら
 後を振り向かずに

 逃避した。

 結局逃げきれなくて、また戻ってきた。



 榴華たちと合流出来たのは夕方になってからだった。
 再び水渚の自宅で勝手に休息を取る。水渚は留守だった。

「で、俺たちは崩落の街に向かいたいんだ。榴華案内願えるか?」

 遊月は食事に手をつけながら本題を話す。栞には断られた。そうなると唯一の希望は榴華だけだった。

「崩落の街ねぇ、あんな街に行って何があるってん?」
「銀髪の、罪人の牢獄支配者の話だと、俺の探し物はそこにあるらしいんだ」
「あれの、話を自分はホンマに信じているん?」

 榴華の問い。それは遊月自身が何度も自問自答したこと。
 銀髪は罪人の牢獄支配者。その者の言い分を完璧に信じ切っていいのだろうかと。
 けれど、遊月は頷いた。この牢獄に来てからやっと掴んだ手掛かり。それをみすみす手放すわけにはいかなかった。それがこの先何を待ち受けていようとも。
 その為に、力をつけて、再びこの地に足を踏み入れたのだから。もう戻れなくても、もうあちらの土を踏めなかったとしても。


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