W 唯乃は手を休めることがない。銀髪は途中で交わすのが面倒になったのか、これ以上は交わせないと判断したのか唐突に動きを止めた。 唯乃の髪の毛が銀髪に無数に突き刺さる。 そして突き刺さったまま身体を動かし遊月の方を向く。 「なっ」 唯乃の表情が驚愕に染まる。苦痛の表情を一切浮かべることなく。それだけではない。何もないように、始めから攻撃などくらってないようなその動きに。 「ねぇ、ネオどうするんだい? 君は君の目的を達成することは此方としても構わないんだ。でも、君じゃあまだ手の届く場所にあるとは到底思えない」 「……」 銀髪は語る。続ける。後方から唯乃がいくら攻撃を繰り出そうとも気にも留めない。 「それに一つ訂正しよう。此処は君の目的があった後地といっても過言じゃない」 「跡地……」 「そう。今君の目的のものと、それとそれに準じるものはこの場所にはない。君が手を伸ばそうというのなら、失ったものを取り戻したいと切に願うなら場所を教えてあげよう『崩落の街』にあるよ」 「崩落の街?」 聞き覚えのない単語に顔を顰める。 「そう、この罪人の牢獄に街として認識されていない場所。嘗て街として存在しようとした場所、そんなことろかな」 銀髪は一旦言葉を区切る。 そして邪悪そうに笑みを浮かべた。 何処までも、何処までも闇を空気で感じさせる。 「崩落の街に赴いたら最期だよ」 銀髪の周りには銀色の粉が舞始める。 「それじゃあね。そこから先、選ぶのは君だよ」 銀髪の身体は次第に銀色の粉に変わっていく。唯乃の髪はそのまま力をなくし、元の場所に戻る。 銀髪の姿は銀色の粉になり。姿を消した。 唯乃は嘆息する。彼は何者だと いくら身体を突き刺そうが、急所を貫こうが死ぬことのなかった身体の持ち主。 「主……あの者のいうことを信じるのですか?」 「……崩落の街が何処にあるのか俺には見当がつかない。お前らは?」 遊月としては半信半疑だった。罪人の牢獄支配者が親切心で自分たちに目的地を教えてくれるとは到底信じがたいことだったから。それに遊月自身、崩落の街の存在は知らなかった。初耳。場所すら知らない。長時間街の外をうろつくことは危険。否、遊月の現在の身体では可能だろう。人形である唯乃もまたしかり。 「俺は知らないな。今銀髪の言葉で初めて知った」 篝火は首を横に振る。すでに背中に当たる違和感はない。 「……崩落の街ね」 「知っているのか栞?」 「知っているよ。知っているけれど崩落の街に俺は近づきたくない。そこにいく案内役は御免だ」 「……何故」 栞が断る、そのことに怪訝そうに顔を顰める。栞が自ら行きたくない等という場所が存在していることが遊月にとっては驚きだった。 栞は神出鬼没で何処にでも現れる。そんな印象は過去も現在も抱いている。 [*前] | [次#] TOP |