V 「短気は損気。いきなり攻撃してくる必要はないよ」 「可能ならと貴方はいいました。それは貴方が敵だということに他なりません」 淡々と答える、主に害をなす人物を唯乃は許さない。 「可能ならイコール俺が敵っていう風に方程式を立てるのは感心しないよ」 「そうでしょうか? あながち間違いでもないと思いますよ。百点は頂けなくとも八十点は頂けると思います」 「八十点とは高得点だね」 銀髪は余裕の表情で会話をするが、避けていることに関して余裕はあまりなかった。唯乃の攻撃は手数が多く交わしにくい。捕まらないようにするのが精一杯なのか。それとも攻撃する意思がないのか、銀髪は攻撃手段には出てこなかった。 唯乃はそれを疑問に感じながらも手を一切休めることはしない。 躊躇して、一瞬の迷いが隙を生んで、主に怪我をさせることはしたくないから。 主の目的を主のその姿をこの目に焼き付けておきたいから。 「自意識過剰ではありませんよ。貴方が怪しいからですよ」 「どの辺が」 「全てです。その姿も匂いも雰囲気も何もかも」 「そりゃあ大層な言われようだね。敵か味方か、そんなのに俺は特に興味はないけれど……」 銀髪の頬を唯乃の髪が掠める。血が一瞬だけ滴るがそれも刹那のこと すぐに何もなかったかのように戻る。 唯乃はそれに驚きながらも攻撃の手を緩めることはしない。 次は腕を掠める。銀髪自体交わす余裕はそんなにないのだろう。 しかしこれもすぐに元の形状に戻る。服もだ。 唯乃は流石に怪訝そうに思う。何か仕掛けが、術が施されているのではと勘繰る。 是は本人ではなく幻影なのではないかと思った時銀髪は笑みを浮かべる。 「本人だよ。残念ながら。それに瀕死で今にも死にそうなネオを助けたのは俺なんだけどなぁ」 「え!?」 唯乃の手が一瞬とまる。敵を前にしてそれは致命的なことではあったが、銀髪は何も攻撃してこなかった。 「確かにあの時お前は俺の命を助けた。けれど、同時に奪ったじゃないか」 ネオが会話に加わる。 「……それはネオも承知の上のことだろ?」 「まぁな、だから。だからこそやるんだよ」 「ネオは覚悟を決めているってわけか……」 銀髪は嘆息する。 「なぁべつ……!?」 篝火が会話に加わろうとした時だった。背後から何かを突き付けられる。 背後にいるのは栞――その感覚は栞の所持している拳銃だった。 「このまま部外者は成り行きを見守るべきだよ」 「……なら、口でとめてほしいもんだけど?」 「口だけじゃいざって時心細いから? あっでも俺人殺しは嫌いだから。何もしないよ」 なら最初から拳銃を突きつけるな、そう言いたくなる篝火であった。 栞自身も打つ気はないのだろうから、動こうと思えば動けた。しかし篝火はどうにも動く気になれなかった。まだ見極めていないから。遊月と銀髪双方の目的を。 選ぶのはそれを見極めてから。 [*前] | [次#] TOP |