零の旋律 | ナノ

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 数年前だろうと、数十年前だろうと、決して変わることのない人物が瓦礫の上に座っていた。
 最後に見た時から何一つ変わらないその姿を遊月は発見した。
 瓦礫の上に座るその人物はまるで見下すように、彼らを見ている。

「罪人の牢獄支配者……!!」

 遊月が叫ぶ。嘗て、自分を引きずりこんだ男を呼ぶ。罪人の牢獄支配者通称銀髪は不敵な笑みを見せた。
 銀色の髪がこの空間で反射する。銀色の粉が光を作る。

「久しぶり。ネオ、戻ってきたんだね」
「あぁ。戻ってきた。……俺は俺の大切なものを取り戻しに」
「あれを取り戻すのは別にネオの好きにしてもいいと思うよ。例えネオが捨てたものだったとしても、元の持ち主はネオだからね。それにそれを誰もとりにこなかったわけだから現在の所有者が別の誰かということもない」

 その言葉で遊月は確信した。此処にあると。
 手放して、そして求め続けてきたものが今目の前にあることに。
 手を伸ばせば届きそうなのに、手を伸ばせないことに。
 触れられそうなのに、形が見つからなくて
 触れなくて、触りたくて手を伸ばして――

「主!!」

 唯乃の言葉で現実に呼びもどされる。

「あ、あぁ」
「どうしたのですか主。急に……」
「いや、俺の目的のものに近づけたと思ったら、気持ちが高ぶってしまって」

 そして惑わされた。幻術でも幻影でも幻でもなんでもない。今の気持ちは、ただ言葉に惑わされただけ。自分の感情に支配されただけ。
 遊月は一度深呼吸して落ち着く。
 ――取り乱すな、落ち着け冷静でいろ
 自分自身に言葉を語りかけ、落ち着かせる。

「大丈夫だ。慌ててしまったな。目の前に目的の品があってそれをみすみす取り逃がすわけにはいかない」
「主。彼は何者ですか。確か主は罪人の牢獄支配者と――」

 栞と篝火は動かない。ただ現状を傍観しているだけ。今は踏み出すべき時ではないか
ら。何故罪人の牢獄支配者がこの場に来ているか篝火には到底理解しがたかった。だからこそ、中立を選んだ。どちらに転ぶかはわからない。
 罪人の牢獄支配者――銀髪は、頬づえをついて。出方を見ている。

「銀髪。俺の心臓を返してくれ」

 率直に遊月は告げた。まどろっこしい言葉は言わない。回りくどいこともしないで単刀直入に尋ねる。
 銀髪はゆっくり口を開いた。言葉を選んでいるようにも見えた。

「俺は今持っていないよ。例え君が俺をとっ捕まえて吐かせようとしても今俺は持っていない。罪人の牢獄にあるのは確かだけど。だから君が自力で見つけ出すなら俺は何も言わないよ」
「……銀髪」
「君は君であるという形が欲しいなら君は持っていけばいい。けれどね、それが可能ならって話」

 唯乃は跳躍した。髪の毛を一瞬で形状を変え、空を飛ぶ。二階の高さにいる銀髪のところまで一気に辿り着き、髪の毛を鋭い刃に変形させ銀髪を突き刺そうとする。
 しかし銀髪は一歩早く動く。飛び降り地面に着地する。唯乃は瓦礫の上に足をおき、銀髪の元へ躊躇なく飛び降りる。華麗に着地をする。衝撃は薄かった。
 唯乃は髪の毛を操って銀髪を捕えようとするが、銀髪は素早く逃げる。


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