零の旋律 | ナノ

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「失ってから、気がついたんだよ」
「……貴方は此処にきたことを後悔していますか?」
「さぁわからない。でも少なくとも来ない方が良かったとは思わない。此処に来て、何もなかったわけじゃないから。此処で出会った大切な仲間がいるから――罪人の牢獄だとしても。犯罪者だとしても」
「答えは人それぞれでしょうね。きっと。そしてそれが貴方の答えの一つ」
「だろうな」

 唯乃が表情を柔らかくしたように、一瞬篝火には見えた。

「唯乃お前何話しているんだー」

 その時、前方から遊月が話しかけてくる。唯乃と篝火の会話内容は知らないらしい。

「世間話です。主、主こそ何を話していたのですか?」
「あー、栞に現状を説明してもらっていた。いくら俺が罪人の牢獄にいたらといっても、結構昔のことだからな。今とは色々変っている部分もあるだろうから」
「成程」

 篝火はそこで栞という青年は一体いつから罪人の牢獄にいるのか気になった。
 朔夜との仲を見れば旧知の仲だろうと判断出来た。朔夜は元々この罪人の牢獄で生まれた存在。栞の年齢は朔夜より一つ上だけらしい。そうなると何歳から栞はこの地にいて。どんな罪を犯したのか、全く気にならないといえば嘘になる。

「何か収穫はありましたか?」
「最果ての街梓の恐ろしさを感じた」
「はぁ」
「泊めてもらっている時はあっやばいなこいつとは思ったけれど話しを聞くとさらにね。関わらない方が身のためな気がする。感覚的な問題で、気持ち的な問題で、今の俺でも梓には勝てない気がするというか勝ちたくないってのが嘘偽りない心境」
「主が長くいうと嘘っぽいですけれどもね」

 唯乃は半信半疑といったところだった。唯乃自身自分の実力に多少なりと自信を持っている。そして遊月の戦闘能力の高さを知っている。力を知っている。
 唯乃は何を遊月が求めているか知っている。
 唯乃はただ、目標を達成するための最善の方法を手伝うだけ。
 障害となるなら、篝火も栞も、誰だろうとこの手で排除しようとするだけ。
 街外れの崩落した場所。最果ての街のしないでありながら見放された場所。

「あっ……」

 遊月は何かがフラッシュバックする。それは記憶。懐古。意識。無意識。

「主?」

 怪訝そうに唯乃は遊月に近づく。
 ――何か思い出せそうな
 けれど――思い出せない

「主大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。何かが思いだせそうなそんな感じがするんだ。此処に何かある」

 遊月は確信した。この場所に何かがあることを。例えそれが自分の求めている目的の品ではなかったとしても、それに繋がる重大なものがあると。
 確信出来た。
 自分の感覚が引き寄せられる。遊月は一歩一歩近づく。歩いていくと、他の崩落した建物より、でかい建物があった。二階だてくらいの大きさがある。崩落する前はどの程度の大きさだったのだろうか篝火は考える。
 日差しはないのに眩しく感じる。思わず目をつぶりたくなる程に。視線を反らしたくなる程に。遊月は上を見上げる。

「お前は……!!」


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