第三話:銀の支配者 遊月と唯乃、篝火と栞はそのまま最果ての街から少し外れた場所に向かう。 底は建物が崩落して、腐敗してもはや人も住めないような場所だった。態々そんな場所に寄りつくモノ好きは最果ての街に住んでいる罪人だって怱々いない。 「何処にあるんだろうなぁ……俺の探し物」 ぼそりと呟く。思わず零れた本音。 何日も探した。けれど見つかる気配は一向に見つからない。 先導を歩く遊月と栞。先刻の雰囲気は一切ない。 唯乃は篝火に小声で話しかける。 「貴方は何故、私たちについてきているのですか?」 問い。疑問。疑念。疑惑。 「何故って」 「あの朔夜という青年は主の知り合い。それは理解します。そして榴華もまたしかり。けれど貴方には目的がないじゃないですか。私たちと態々一緒に行動する理由が、意味が。何か目的や、企みがあるとも到底思えませんし」 「朔夜の、相棒だから。って答えじゃ駄目か? お前が遊月――主につき従うのと同じように」 「いえ、それはそれで構いません。ただ疑問だっただけですから」 そういって唯乃は続ける。聞いてみたいことがあったから。 「貴方は何の罪で罪人の牢獄に送られたのですか? 私は――もっと狂人の集団をイメージしていました。こういってはなんですが、貴方は遜色がないと思います。国に住む人々と」 唯乃の正直な感想だった。勿論、罪人の牢獄にだって、国にだって様々な人が住んでいるのだから違って当然。罪人の牢獄の罪人達が全て狂人とは限らない。それを唯乃は知っている。けれど問わずにはいられなかった。 「俺はどうしたって犯罪者だよ。俺は――泥棒をやっていてね。まぁつまり窃盗罪で捕まったってわけ」 「……そうだったのですか」 「もっとなんかやらかしたとでも思っていた? でもそんなもんだろ」 「まぁそうかもしれませんね。ただ。此処まで来て生き残っていると考えるからこそ、何かを思ってしまうのかもしれません」 唯乃の言葉に篝火は頷く。否定できないから。力がなければ、生きる気力がなければ、こんな場所で生きていくことなど不可能といっても過言ではない。 「……俺さ、大切な相棒がいたんだよ」 「過去系、ですね」 「あぁ。大切だったし、好きだった。でも当時の俺はその感情を認めることが出来なかった。あいつは俺のことを好きだっていってくれた。でも俺は何も言ってやれなかった。深層では大切だって認めているのに、口に出して言うことが出来なくて、それで死んだ」 篝火は明後日の方向を見ながら語る。唯乃はただ耳を傾けていた。余計な言葉は一切はさまない。 「成功するわけのない盗みを働こうとして、たった一人無謀に挑んで、結果死んだ。死んだときに初めて俺は俺の心の底を認めた気がしたんだ。いくら後悔したって嘆いたって過去は戻ってこないし、あいつは生き返らない。俺は自暴自棄になって捕まった」 あの時の光景を今でも鮮明に思い出せる。あの時の光景は今なお記憶に深く残ってい る。 篝火自身どうして唯乃にそんな話をしているのかわからなかった。けれど自然と言葉が溢れた。 誰かに聞いて欲しかったのかも――知れない。 [*前] | [次#] TOP |