零の旋律 | ナノ

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 栞は真っすぐリビングに向かう。キッチンも目の前だった。

「食べ物はー多分食べられると思うから好きなように料理しなよ」

 栞自身は料理をしない模様。
 すると視線は篝火と朧埼に分かれた。
 二人は目を会わせる。

「……俺がやるよ」

 朧埼が挙手したため。篝火は料理を作らないことになった。
 適当に漁ると、まだ食べられるだろう食べ物があったことから、誰か住んでいるのは明白であった。
 人の気配はしない、住んでいる気配もしない、生活感の無い中で食べ物が唯一、人が住んでいることを証明しているかのようであった。

「此処誰の家なんだ?」
「さぁ、自分はわからんよ」

 榴華は部屋の中に視線を泳がせて、落ち着きなく見ている。
 篝火は栞に視線をずらした。
 栞はしばし答えにくそうに苦笑いした後、口を開いた。

「此処は。水渚(みなぎさ)――いや、水渚(みぎわ)の住んでいる場所だよ」
「あいつの!?」
「うん。もっとも滅多に寄りつかないからね。でも食べ物だけは確保しているから。それに水渚の家にある食べ物なら安心でしょ?」
「……かもしれないな」

 篝火は水渚を知っていた。榴華も水渚という名前に反応を示す。

「水渚っちの自宅だったんかいなぁ、ならまぁ自分も納得や」
「水渚の家に態々不法侵入しようって輩は怱々いないしね」
「そりゃ、安心や」

 来訪者たちは一体誰のことを指しているのか。元罪人の牢獄いた遊月ですら判断が出来なかった。
 朔夜は上の空になっている。けれど誰も声をかけなかった。そっとしておいたほうがいい、そう判断したから。
 それから二十分程雑談が始まる。主に今まで何をしていたのかの情報交換といったこところか。

「おーい、出来たぞ」

 朧埼が昼食を作り終えたら全員食べ始める。相変わらず朧埼の外見とは会わない料理の上手さに舌を巻く一同。
 篝火はそろそろパンが恋しくなってきていた。
 朧埼が作った料理はスパゲティ―だった。
 食べ終わった後の片付けは朧埼と篝火二人でこなす。家事を全てそのうち任されそうだなと二人顔を見合わせて笑った。他の面々も料理が出来ないわけではない。勿論からっきし出来ない人もいるが。

 榴華は食べてすぐソファーに横になってゴロゴロしている。別に疲れたわけでもない榴華だったが、満腹後の休息。

「おい、食べてすぐに横になるんじゃねぇ」

 朔夜が怒鳴った。変なところしっかりしている朔夜に益々疑問がわく炬奈と朧埼。
 朧埼と篝火の後片付けが終わった後、朧埼の休憩時間を兼ねて少し水渚の自宅で寛ぐ。水渚は帰ってくる気配を一向に見せなかった。一体何日帰宅していないのか部屋の状況からは少し判断がしにくい。
 ただ、一日や二日ではないことは、埃が僅かにたまってきていることから判断が出来た。
 水渚の自宅を出てからはまた別行動をとることになった。


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