V 「栞! お前……」 たまらず朔夜は叫ぶ。朔夜に向けて栞はにっこりほほ笑んだ。 「大丈夫だよ。朔」 「何がだよ……お前……」 「朔夜。どういうことだ?」 事情を知っているだろう朔夜に篝火は問う。炬奈と朧埼の視線も朔夜に向く。 「目的を、ネオの目的を果たした後、ネオが……罪人の牢獄にとって不利益なことをするつもりなら、栞は今のうちに片付けるって意味だよ……」 「殺すってことか?」 「いや、今の状況で殺しはしない。栞は人を殺すのを嫌っているからな……」 「何をそんなに懸念しているんだ?」 朔夜の言いたいことが明確に分からなく、篝火は首を傾げる。 「……栞は切れると怖いってことなんだ」 「そりゃ、誰だって切れたら怖いだろ」 朧埼のひと言。 「まぁそうだんだけどな」 朔夜の言葉を聞いた後榴華が動いた。二人の間に入るように。 下手すれば双方からの攻撃を受ける真ん中に。 「何やっているんねん自分ら。短絡的やないの?」 榴華の周りに僅かに紫電が舞い始める。 「……そうだね、ごめんねーネオ。変なことばっかいっちゃって。でも……事実だから」 その時の栞の瞳が、酷く冷酷で、背筋を凍らせるような視線にネオは顔を僅かに下に下げる。 薄香色の拳銃を栞はしまい両手をあげて降参のポーズをとっていた。 榴華は栞の戦意がなくなったのを確認してから紫電の光を消す。 重い雰囲気を壊すのはその張本人。 「それにしても、これだけ探しても成果全然ないなんてね―。誰かが隠蔽していたりして」 けらけらと笑っていたが、遊月はその言葉が嘘ではないことを実感する。勿論それは栞が隠蔽したわけではないと知った上で。 「主、彼をそのままにしておいていいのですか? 主の障害となるのなら」 唯乃は遊月に近づいて耳打ちする。 遊月は苦笑いしながら、首を横に振る。 「いや、いいよ。栞が本気にならない限りは問題ないから」 「主があの青年の何を懸念しているのかは推測しかねますが、私にはそこまでの実力を持っているとは思えません」 「それが栞だから」 「はぁ」 「栞はああいう性格だから、普段は危惧する必要性も皆無だよ」 唯乃は納得出来なかったがこれ以上の会話は不審に思われると判断し止める。唯乃は自信があった。大抵の相手であれば自分の敵ではないということに。 「それにしても、シオリン急になんやそんなことを会話に出したんや?」 「んー確認だよ。ってかシオリンって何」 「あだ名や」 「いや、それくらいわかるよ」 シオリンと呼ばれていたら女の子というイメージを相手に抱かせそうだなぁと栞は思う。ふと、そんな時過去を思い出す。決して忘れられない。忘れることのしない過去を。 「自分あだ名つけるん趣味やから」 「ならもっとネーミングセンスをつけることをお勧めするけど」 「これ自分の特徴なんやから特徴とったらあかんよー」 その独特な喋り方は偽りを演じているだけだろうが、と心の中で突っ込みを栞はいれながらも、表面上は笑顔だった。毒毛を感じない純粋な笑顔を感じさせる。 [*前] | [次#] TOP |