零の旋律 | ナノ

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 最果ての街の罪人達が不用意に襲ってこないのは榴華が数度戦った姿を目撃しているからか、榴華が罪人の牢獄で戦闘能力に限定すれば最強とも謳われる存在だからか、栞が元第三の街支配者だからか、様々な要因が合わさって比較的安全に最果ての街に滞在出来た。

「なぁ、一旦この街からでん? これ以上此処にいるだけ怪しまれるだけやし」

 榴華の意見に一同賛成し、一旦最果ての街から離れることにした。
 砂の舞う場所だったが、数時間程度いたところでさほど人体に影響があるわけではないため、外で暫く休息を取ることにした。

「篝火たちは最果ての街で寝泊まりしていたのか?」
「あぁ。梓のところに停めてもらった」
「よく生きていたな」
「……」

 篝火は無言になる。何かひと悶着あったのだろうと朔夜は推測した。

「……なぁ、遊月の目的は何だ?」

 そこで榴華が遊月に声をかける。その口調に全員の視線が榴華に集まった。別に本性になる必要性のない場面で本性になった、そのことに意味があるから。
 遊月の体制はいつの間にか臨戦態勢になっている。唯乃も同様だ。

「りゅう……か?」

 朔夜は遠慮がちに声をかけるが返答はなかった。

「あぁ、安心しろ。今のところは殺すつもりはないから」
「……どうして目的を聞きたがる?」
「それが罪人の牢獄に、しいては俺の大切な人に害が及ぶ可能性があるのならほおっておくわけにはいかないから。それだけだ」

 朔夜は納得する。榴華にとって大切なのは柚霧だけ。万が一柚霧に危害があるようなものであれば危険因子を榴華は全力で排除しようとする。

「そういうことね。別にあんたらが困るようなことは何もないと思うよ? 俺が欲しいのは、俺の目的は俺が俺として生きるためのものだから」
「その後……ネオはどうするの?」

 口を挟んだのは栞だった。

「その後って、まだ考えてねぇよ」
「本当? 嘘でしょ。ネオは考えているよね? そんなそれだけの目的のためにくるとは思えない。浅はか過ぎる考えを君は起こそうとはしないでしょ? だからこその――」

 栞の頬を遊月の爪が掠める。栞と遊月距離は二十五m程ある。
 栞の頬からは僅かに血が流れた。

「栞、お前……」
「いきなり攻撃ってのは酷くない? 俺は“まだ”何もしていないよ。まだネオの目的の品すら見つかっていないんだからね。だから此処で聞いておきたいだけだよ。ネオ。君はその後どうするつもりなんだい? まさか罪人の牢獄で暮らすなんて今さらなことは言わないよね?」
「……」

 何も言わない。それは肯定でもなければ否定でもない現れ。
 栞の次の言葉を待っているから。

「ネオ。是はお願いだからね。君が目的の品を手に入れようとすることは俺にとっては別に構わない。けれど、君が是から先しようとしていることはしないでほしいな」

 遊月が動いた。無言のまま爪を伸ばし栞に攻撃する。けれど横に転がるように移動する、そしてそのままその勢いを利用して立ち上がった。

「酷いなぁ。いきなり普通攻撃してくる?」
「お前が今後俺の敵に回るなら俺は先にお前を倒さなきゃいけないんだよ。目的の品を手に入れた後では勝てないからな」
「目的の品を手に入れることがネオの弱体化に繋がるからね」

 栞の手には薄香色の拳銃が握られている。

「そういうこった」

 他の面々はついていけずに現状を見ている。ただ、唯乃だけは何時でも助太刀が出来るようにしていたが。


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