零の旋律 | ナノ

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「まぁ……リアトリスもついてくるなら誘うけど、アーク仕事は?」
「残念なことに次の依頼はまだなんだよな」
「そうか、良かった。リアトリスがついてくるなら俺らが返ってくるまで家にいろよ? 仕事に飛びつくなよ」

 念を押すと

「えー」

 案の定アークは不満な表情をする。始末屋当主は周りからみればはた迷惑な仕事中毒なのだ。仕事が舞い込んでくれば嬉々として仕事をしに駆けだす。

「家にあいつとリィハだけ残しておくわけにはいかないだろうが」
「えー。大丈夫だよ、リィハは自分の怪我は自分で直せるんだし」
「リィハが怪我する前提じゃねぇかよ!」
「死ななきゃ問題ない」

 断言するアークに、キルセはため息一つ、と笑いをこらえた。

「リィハなら死んでも不思議じゃないからな、いっとくけど」
「仕方ない。じゃあ仕事になったらリテイブとリィハ連れて行くよ」
「いやいや、リテイブまだ安静だからな?」
「じゃあやっぱ、リアトリスは連れて行くな」
「……俺に死ねと。殺されるなといいながら、死ねと」

 キルセは今度こそため息をついた。この仕事中毒具合は今に始まったことではないが、少し自重を覚えた方が世のため人のためだ。

「頑張れ、埋葬はしてやるから」
「殺される前提じゃねぇかよ。ったく、はいはい。じゃあカトレアを誘ってくるよ」
「あ、ってかカトレア誘わなきゃキルセ生き伸びれるんじゃね?」
「あ……まぁいいよ。折角だし」
「何、キルセもマゾだったのか?」
「“も”って何だ!? つか、俺は違うぞ。至って普通だ!」
「自称な」
「自称じゃねぇっての! もう、いい。カトレアのとこ行く」

 キルセは会話を切り上げ、カトレアが昼食の準備をしているだろうキッチンへ足を運んだ。キッチンにはリアトリスもいて一緒に仲良く作業していた。

「カトレアー」
「なんです? キルセはお呼びじゃないのでお帰り下さい」
「いや、リアトリスが反応するなよ」
「ぶー。いいじゃないですか、私、こうみえてもカトレアと声一緒なんですから」

 リアトリスが抗議をするがキルセはそれをスル―する。アークといい、リアトリスといい構っていては日がくれる。どっぷり沈む。

「声一緒でもだまされないから大丈夫だ。カトレア、俺これから花買いに街まで行くけど一緒に行くか?」
「うん、いきたいかな」
「じゃあ行こう」
「ってずるいですー! なんでキルセは私を誘ってくれないんです?」
「リアトリスを連れていくと万が一の時に困るから」
「……ちょっと今からリテイブ殺してきます」

 リアトリスの手にはいつの間にか槍が握られていた。行動が素早すぎてキルセは苦笑する。

「いやいやいや、ちょっと買い物にいくノリで殺しに行くなよ」
「大丈夫ですよ、まだ安静中なリテイブならぐさっと串刺しに出来ますから」
「大丈夫じゃないからなそれ。いいからリアトリスは留守番だ、お土産買ってくるから」
「仕方ないですね―では、リテイブに盛る毒を買ってきてください」
「……殺し屋にきく毒なんて俺知らないぞ」
「じゃあ毒草沢山買いだめして来て下さい、私がお手製で作成するのでー」
「……絶対買ってこないから安心しろ」

 キルセはやれやれと本日何度目かのため息をつく。レインドフ家にいると賑やかで楽しいが同時に、ため息の数が増える。
 執事が新たに増えたことだし、是からため息の数はウナギ登りになりそうだ。


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