X 暫くするとリィハがグラス並々に水を入れて持ってきた。 「はい、水」 「なんで飲みにくそうなほど水入れているんだよ」 「たくさん飲むのにいいだろ。何回も往復したくないしな」 「ピッチャーに入れてこいよ」 そういいながら、実は喉が渇いていたリテイブは一気に水を飲み干す。 「俺は寝るからさっさと出てけ。邪魔だ」 「はいはい」 「暫くは安静だからな! わかったか」 「うるせぇわかってるよ」 キルセとリィハが部屋から出ていき、静かな空間になった時、リテイブは視線を鋭くした。 ――馬鹿か、あいつら。 キルセとリィハは階段を降りながら会話をする。 「で、リィハは帰るのか?」 リィハが呼ばれた理由は、執事になるリテイブの治療をするためだ、一応その仕事は終わっている。 「いや、暫くはまだいるよ。また怪我をしたら稼ぐのにちょうどいいからな」 「流石、がめついな」 「がめついいうな。稼げるときに稼ぐのは当然だろう」 「……まぁいいけど。どーせアークは金銭に頓着しないわけだし。俺は庭仕事でもするかな」 「まだ仕事残ってたんだ」 「いや、終わっているけど暇だから」 「あー真面目だなぁお前。俺は疲れたから本でも読むよ」 「お疲れさん」 キルセはリィハと別れると、とりあえず花壇を眺めるかと思い玄関を開けると心臓に悪いタイミングで始末屋レインドフ家の当主であるアークが立っていた。 「お、おかえり。つか玄関にたちっぱなし止めろよ。驚くだろ。寿命が縮まるわ」 「偶々タイミングが良かっただけだ。ただいま」 レインドフ家の当主であるアークのやや紫の艶がある黒髪の毛先は赤く染まっていた。服には返り血一つ見当たらないのに、どうして毛先にだけ血を浴びているのだろうか、と呑気なことを思いながら 「とりあえず風呂入ってきたらどうだ?」 風呂をキルセは勧める。 「ん。そうする、所でリテイブはどうだ?」 「リアトリスに殴られて大人しくなって治療された」 「わかった。って、リア殴ったのか」 「手負いの獣は一発殴れば落ち着くそうだ」 「あぁ、なるほど」 「そういうことだ」 「キルセは今暇なのか?」 「暇だな」 「買い出し頼んでいいか?」 「何を買ってくるんだ?」 レインドフ家の屋敷から街までは聊か距離があるため、普段は週末に業者が纏めて食材などの必要物資を届けている。 そのため、まだ午前中とは言え、買い出しを頼んでくるのは珍しかった。 「そろそろ新しい花でも買ってきて育ててもらおうかと思って。適当に頼んでもいいけど、やっぱ見て判断した方がいいだろ? なんなら花壇増設していいから」 「それで俺か」 「お前が一番詳しいだろ?」 「じゃあ、カトレアも誘ってくるかな。あいつ花好きだし」 「リアには殺されるなよ?」 「……忘れてた」 キルセは、カトレアを世界で一番大切にしているリアトリスの、鬼の形相を想像して肩を落とす。キルセもカトレアもお互い花が好きなため、会話をよくするのだが、それがリアトリスからみれば“とても”仲が良く見えるのだ。 [*前] | [次#] TOP |