零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、俺は水でも持ってくるよ。飲むだろ?」

 成り行きを見ていたキルセが声をかける。

「……いる」
「わかった」
「って待て。俺が持ってくるからキルセは此処にいろ」
「は……っておい」

 キルセが返答するよりも早く、脱兎のごとくリィハは走って水をとりにいった。

「あいつ、どんだけ俺を怖がっているんだよ」

 リテイブは冷笑する。

「そりゃ、初日に怪我させられれば怖がっても不思議じゃないだろ」
「あれくらい交わせないあいつが悪い」
「いや、リィハはその辺のゴロツキにも負けるくらいに弱いんだから仕方ないだろ」
「雑魚だな」

 再び冷笑する。本人がいないところで酷いいいようだと思ったが、先刻リアトリスが本人の前で雑魚と言っていたのとどちらがましなのだろうか、とリィハとは対照的にリテイブを怖いと思っていないキルセは呑気なことを考える。

「つーか、なんで始末屋なんかにいるやつが、俺を怖がるんだよ。他の奴らは別に怖がっていないだろ。あの女だって怖がっていないぞ」
「今度はカトレアの方か」
「あの女はそもそも全く戦えないだろ」
「わかるのか?」
「そりゃ……あいつのようにはいかないが、素人かそうじゃないかの区別はつくもんだろ」
「俺はわかんね」
「キルセは何をやっているんだ」
「庭師。だから花瓶を武器にするな。どっかの始末屋みたいに」

 その始末屋は現在嬉々として仕事中。
 キルセは部屋に戻ってきたリィハが床に錯乱しているガラスの破片で怪我をしないように片付けながら会話をする。

「ちっ……」
「つーかさぁ、俺はアークから執事見つけてきた、としか聞いていないわけなんだけど、なんで執事に……ってうお! 危ないな!」

 執事になったんだ? 怪我だらけで、とキルセが問いきる前にリテイブが隠し持っている銀ナイフが飛来してきた。キルセは咄嗟に袖口に隠してあるクナイで弾く。

「いきなり武器投げんなよ! せめて『是から武器投げるから宜しく』くらいは言え!」
「何処にそんな宣言する奴がいるんだよ!」
「この間アークが言っていたぞ!」
「知るかっ! あの始末屋を元に考えるな」
「そりゃ同感」
「おい……」

 リテイブは思わずため息をつく。

「つーか、この屋敷何なんだよ、お前やあの女が働いているのはわかるけど、カトレアとあの男がいるのは変だろ」
「カトレアとリィハか? つーか俺やリアトリスは働いているは普通かいな」
「特にリアトリスの方はピッタリだろ、メイドって感じはまったくしないがな。笑いながら俺を殴った癖に、あいつ内心では全く何も感情を抱いていないだろ。そんなおかしい奴がレインドフ家にいても不思議じゃないが、俺に怯えるリィハや、一般人にしか見えないカトレアがいるのはおかしいって思うだろ」
「俺の評価だけなくね?」
「そこかよ」
「是でも俺、結構普通の人だと思うんだけどなぁ」
「普通の人は“結構”なんて言って言葉を濁したりしねぇよ」
「あはははは」

 呑気にキルセは笑う。神経図太いやつだな、リテイブは内心彼をそう評価した。


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