零の旋律 | ナノ

V


「治療しに行ったらどうだ? リィハ」
「……キルセも一緒にこい」
「なんでだよ」
「俺一人だと何かあったら死ぬだろ!」
「はいはい」

 仕方なくキルセはリィハに同伴することにした、といっても扉を隔てた僅かな距離しかないが。
 室内に入ると、やたら目につく美人な男がいる。光加減では金髪にも見えそうな銀髪。長い髪はみつあみで纏められている。真っ赤な瞳はルビーのように美しい。
 しかし、痛々しいまでに怪我をした姿は、どうしてそこまでして治療を拒んだのか、実は痛いのが好きなのではないかと疑惑を抱かせるほどに謎だった。

「……なんだよ、また怪我でもさせられたいのか? つーか、一人で入ってこれねぇのかよ」

 リテイブの包帯が巻かれた右手にはいつの間にか銀ナイフが握られている。

「あのなぁ! 怪我直しに来たんだぞ、俺は! 大人しく治療されろよ。あと、俺一人だと死ぬかもしれないからキルセには来てもらっただけだ!」
「……得体のしれない奴に治療されたいと思うわけないだろ、そして開きなおんな。馬鹿か?」
「馬鹿はお前だろ」
「わかったよ。治せ」
「なんで上から目線なんだよ! ……まぁいいけど、にしてもどうして急に心変わりなんかしたんだ? 前は問答無用で切りつけてきた癖に」

 あの時を思い出すと完治したはずの腕が痛む。

「得体のしれない奴がいきなり何かをしようとしてきたんだ、反撃するのは当たり前だろ」
「……俺は治癒術師だ、治療する奴に反撃するなよ」
「それと、心変わりしたわけじゃねぇよ。あの女を殴るにはさっさと怪我を治す必要があると思っただけだ」
「あの女ってリアトリスか」
「もう一人いる女の方は別に殴る必要ないだろう」
「顔は同じだから間違えるなよ」
「似てても似つかないほど似てないだろ」

 リィハは普通のリテイブと会話が出来て良かったと内心ほっとする。
 屈んで包帯を取る。怪我が酷い場所から治療をするのに、手をかかげるとブレスレットにしてある魔石が淡い光を帯びる。淡い光と怪我が重なりあい、傷口がふさがっていく。今までの痛みがウソみたいに消えていく光景に、表情こと変化させなかったものの、内心リテイブは感心していた。
 ――ここまでの治癒魔導が使える奴がいるとはな。
 全体を一度に治療は出来ないため、一か所の治療が終わると別の場所を治療していく。淡い光が途中弱くなることもなく、リテイブが暴れることもなく一通りの治療が終わった。
 終わった、と判断した瞬間リテイブはベッドから降り、歩き出した。リィハは慌てて彼の肩を掴む。

「おい! 待てって!」
「何だ? 治療は終わりだろ?」
「いやいやいや、そりゃそうだけど、まだ安静にしていないと駄目だって。治癒術を使って怪我を治しても、それがすぐに動けることに繋がるわけじゃねぇんだから」
「動けるんだから問題ない」
「そりゃ外傷は治っているけど、完治しているわけじゃないんだ、駄目だ。そもそもリアトリスを殴りにいくのかアークを殺しにいくのかは知らないけど、それならなおさらのことしっかり治さないと駄目だろ」

 リィハは治癒術師として説得しようとする。リテイブは不服そうだったがしかし、元々治癒術師の治療は受けないつもりだったのだ、それを受けただけ怪我の完治期間が短くなった。もう少し療養して完全に治ってからの方がいいか、と腕を動かしてみてもまだ反応が鈍いのを見てベッドに戻った。
 リィハは溜息をつく。
 ――何こいつめんどくさい。
 それがリィハの正直な感想だった。


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