U 「キルセにリィハは何しているんですかー? 野郎が野郎の扉前で立ち往生とか気味悪いですよー」 噂をすればなんとやら。金髪を揺らしながらメイド服をきた少女リアトリスが軽やかな足取りで階段を上り二階へやってきた。 「リアトリス、気味悪いとかいうな」 「気色悪いですよー」 「言い直さなくていい」 「所で、リテイブの部屋前で何をしているんですー?」 「リィハが怖くて中に入れないんだとよ」 「あっちょ! 待てよ」 「そうなんですー? 女々しいですね、流石リィハです。期待を裏切らない雑魚ぶり」 「雑魚いうな!」 「虫けらが良かったですか、気がつかずにすみませんですー」 「どっちも良くないわ!」 漫才のようなやり取りをするリィハとリアトリスにキルセは微笑する。賑やかな場所は好きだ。 「にしてもらちあかないですね―。いい加減殺される覚悟でいけば腕一本と引き換えに怪我くらい直せますですよ」 「腕無くしたら再生出来ないからな? 治癒と再生は全く別だからな?」 「大丈夫ですよ。リィハなら腕一本あってもなくても弱いことには変わりないですから」 「そこじゃねぇ!」 「うるせぇ!」 扉の向こうからどなり声が響いた。余程うるさかったのだろう。扉が一瞬衝撃で揺れ、ガラスが割れる音がした。びくり、とリィハの肩が一瞬震える。 「あいつ! また花瓶投げやがったな」 庭師であるキルセは舌うちする。折角屋敷の彩りをよくしようと部屋に花を飾ったのを投げるための道具にされるのは不本意だ。 「はぁ、全くリィハもだらしないですね―。仕方ないです。手負いの獣は一発殴れば落ち着きますよ。キルセ、扉開けてください」 「はいよ」 キルセの背後にリィハはこっそり隠れる。何かあったらキルセを盾にしようという丸見えの魂胆だ。 キルセが静かに扉を開けると、案の定床にはガラスの破片が散らばっていた。 リアトリスはガラスの破片を器用に避けながら室内へ堂々と足を踏み入れる。 そしてベッドで横になっている不機嫌真っ盛りな銀髪の男に向かって思いっきり右頬を殴った。 その衝撃で男はベッドから転がり落ちる。辛うじて受け身を取ってはいたが、頬が真っ赤に腫れ痛そうだ。頬骨が折れていても不思議ではない勢いだった。 「てめぇっ何をする!」 「仕返しも避けることも出来ない手負いの獣が吠えるな、五月蠅いですよ」 「何だと!?」 「悔しかったら殴りかかってみますか? 手負いの殺し屋が、私を殴れるとでも思っているんです? 馬鹿ですか? 思いあがりも甚だしいですね」 「……リアトリスてめぇ……ふざけてんのか?」 「あんまりにも五月蠅くするよーでしたら、また殴って差し上げますよ?」 満面の笑顔で言い放つリアトリスだった。 「……ちっ」 状況が悪いと舌うちをしながら渋々大人しくなったリテイブに、リアトリスは殴れてすっきりしたと言わんばかりに涼しい顔をして部屋から出て行った。 「あっ落ち着いたみたいですよー」 と呑気な言葉を残して。 [*前] | [次#] TOP |