零の旋律 | ナノ

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 キルセは周囲を警戒しながら走り出す。

 ――こんな場所じゃ、戦えない。一旦視界が開けた場所に逃げた方がいい
 ――街の方に戻るのは危険だな。騒ぎになったら面倒だ。となると

 視界が開け、且つ人がいないだろう場所――森の中にある木々が開けた場所のある一点を目指した。以前、キルセが森林浴をしていた時に発見した場所だ。
万が一、人がいた場合は何とかしようと判断する。とにもかくにもこの場所から移動しない限り勝機は薄い。敵に背を向けて走り出すのは通常ならば自殺行為にも近いが、しかし幸運なことに此処は視界の悪い森の中。木々がキルセの姿を隠す盾となる。
 音がする。キルセが走るのに合わせて追いかけてくる音だ。
 足音から判断するに単独だろうと判断しキルセは内心安堵する。
 銃弾が時折発砲されるが、キルセを貫くことはなかった。木々がキルセの姿を邪魔しているのだ。
 だが、下手な鉄砲数うちゃ当たると言われるように――数を撃ち続けた銃弾がキルセの肩を掠める。

「っつ――!」

 皮膚が避ける。銃弾の熱があついが、痛みで歩みを止めるわけにはいかなかった。
 敵との距離がどのくらい開けているのかはわからないが、足音が聞こえるくらいだ、そう遠くはない。
 キルセは右手のクナイを一旦仕舞い、左肩に掌を当てる。

「汝が痛み、鎮静せよ」

 詠唱をとなると、ブレスレットにしていた魔石が輝きを生み出し、銃弾が掠めた場所の痛みを取り除いていく。

「流血を塞き止めよ」

 痛みが鎮静したところで、傷口をふさぐ。治癒術師リィハの腕前には遠く及ばないが、それでも運び屋としてレインドフ家に雇われる前、自分の怪我を手当て出来るようにと治癒術を学んでいた。

「っとに」

 開けた場所は湖畔だった。水がある場所だが、周囲に木々はそこだけ切り抜かれたようにない。戦闘をするには水だけに気をつければ視界は良好だ。
 自由に動けるよう木々の終点から離れる。これで木々の間に敵が隠れていても、何処にいるかの判断はまだつけやすい。
 とはいえ、相手が標的<キルセ>の的を射やすい利点を相手に与えることも十分キルセは理解している。
 だが、それでもアドバンテージはこちらに動いたと判断したのだ。銃口が太陽の光に反射して、木々の中で金属の光がてかる一瞬を見逃さない。その一瞬にトリガーが引かれ銃弾がキルセを貫こうとするが、場所が分かり、且つ距離のある状態であればキルセも回避出来た。キルセの足元を銃弾が抉る。
 キルセは袖口からクナイを取りだして投擲するが、銃弾より速度が遅いクナイが対象を貫くはずもない。枝と枝を飛び移った音がしただけだった。
 だが、キルセとてそれは想定内。移った音の位置へ、神経を極限までとがらせて次々とクナイを投擲していく。一定範囲内クナイが突き刺さった場所を中心としてキルセは魔導を発動する。


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