零の旋律 | ナノ

V


 同時刻
 アークが一人先行して走り出したのを、リテイブとキルセが後続から追う。

「ったく、毎度のことながら戦闘狂発病させんなよ」

 キルセがため息をつく。額から汗を流しながら走るキルセとは対照的にリテイブは涼しげだ。

「……毎度なのかよ」
「毎度だよ。仕事中毒で戦闘狂。三日三晩は不眠不休不食で動けるけど、その代わりその後は死んだように眠る。三日目にアークが戻ってこなかったら何処かで倒れるだろうから、俺かリアトリスが回収しに行く」
「はっ面倒だな。寝ている間に寝首でもかけばいいだろ」
「なら逆に聞くがそれで満足か?」
「……」

 寝ている間にアークの寝首をかくということは即ち――勝負をつけることなく騙し打ちで結末を迎えるだけ。その後どれだけの再戦を願ったところで死者と再戦することは叶わない。

「それで満足じゃないなら、俺やリアトリス、それにお前が交互に大体回収しに行くことになるだけだ」
「カトレアは回収しないのか?」
「カトレアが回収出来るわけないだろう?」
「それもそうだな」
「――アークを殺したいなら執事をやればいいだろ」

 キルセの瞳がリテイブを射抜く。リテイブが望んで執事になってないことは殺意や言動から一目瞭然だ。それでも、執事として主が連れてきたのならば、どんな理由があるにしろ何らかの“取引”があったことだけは間違いない。
 嘗て、居場所が欲しいなら庭師になれ、といってきたアークの姿が脳裏に蘇る。

「リアトリスみたいに、テンション変えて執事やってみるのもひょっとしたら――楽しいかもしれないぞ?」
「……それの何処に意味があるんだよ」
「さぁーね」
「……馬鹿らしい。俺はアークを追いかける。お前に付き合って走るのに飽きた」
「は!? あっちょっまて!」

 速度を上げたリテイブとキルセの距離は瞬く間に広がっていく。

「おい、俺は庭師で元はただの運び屋だ! 少しは俺にあわせろよ! お前らみたく俺は強くもないし、殺気に敏感でもねぇんだぞ!」

 叫んだがリテイブもましてや姿が見えないアークも戻ってくるわけもない。

「たく、ってうおっ!?」

 キルセの第六感が悲鳴を上げる。それに従って位置を移動すると、銃弾がキルセのいた場所を抉った。クナイを素早く懐から取り出し両手に構える。
 森の中という視界の悪さを逆手に取られた状況では、次に何処から銃弾が飛んでくるのかはわからない。銃弾が飛んできた方向からおおよその推測はつけられるが、音もなく木々の間を移動されている可能性も否めない以上、その方角にだけ集中するわけにはいかない。是が始末屋や執事、メイド姉ならば場所の特定も容易なのだろうが、生憎庭師にはそこまでのスキルがなかった。舌うちをする。こんな状況になるのならば首輪でもしてリテイブを手元に置いておくのだったと。

 ――まぁそんなことをしたその日にゃ、俺が墓場に行きそうだけどな


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