零の旋律 | ナノ

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 同時刻

「暇ですねー」

 レインドフ家に残ったリアトリスが呟く。椅子に体重をかけて器用に椅子の脚一つの状態で傾けて暇さを現していた。

「暇だからっていって、お前アーク達の所へ行くなよ」

 厚紙以下の耐久力しかないリィハが懇願する。

「行かないですよ―。リィハしか盾がないのに、カトレアに万が一のことがあったらどうするんですかー。この屋敷にいるのはリィハ一人じゃないんですよ」
「それ、俺だけだったらアーク達の所へ行くって公言しているようなものだよな」
「当たり前じゃないですかー」

 リィハはため息をつきながら、帽子に手を当てる。

「少しは俺にも優しさを分けてくれよ」
「元々私の優しさはカトレアに対してしか持ち合わせていないので無理ですね―」

 けらけらと、リアトリスは本心から面白いと思っているわけでもないのに笑う。

「全く、相変わらずだ」
「仕方ないですよ―私ですもん。……リィハ……カトレアと一緒にいて」
「ん? どうした……ってまさか」
「そのまさかみたいですよ」

 リアトリスは椅子から立ち上がり、腰にあるリボンに手を当てると、そこから折り畳まれた槍を取りだす。瞬時に連結して真っ直ぐの状態になった槍には、花弁を模様した刃が一連となり繋がっている。
 リアトリスの視線は、のんびりしていたリビングの窓の外へ向けられている。

「どれくらいいるんだ?」
「さぁ、私そこまで気配読むの得意じゃないですし。まぁ――私一人で大丈夫な量ですよ。リィハはカトレアを守ってくださいですよ、万が一傷一つでもつけてみてください。鼻の皮がなくなる程度じゃ済まないですからね」
「ひぃ……!」
「それじゃ、私は外に出るですよ……一応、すぐに対処出来るようにリィハとカトレアもエントランスまではいてくださいね」
「わかった」
「お姉ちゃん、大丈夫?」

 エントランスに到着した時、リィハの隣に並んだカトレアが心配そうに姉であるリアトリスを見る。金色の髪をリアトリスが優しく撫でた。

「大丈夫ですよ―。私が、そんな不審者ごときに負けるはずがないんですから」
「うん、お姉ちゃんなら大丈夫ってわかっているけど、でも心配で」
「心配してくれてありがとうです―」

 カトレアの澄んだ緑色の瞳や心配した表情に嬉しくなって思わず抱きついた。

「では、さっさと始末してくるですー」

 リアトリスが手を振りながら余裕の足取りで屋敷の外へ出た。


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