零の旋律 | ナノ

V


 ひとまず、これ以上の情報を探したところで得られないな、と判断したキルセは庭師になる前から度々付き合いのあった情報屋に、レインドフについて何かあったら教えてくれと依頼だけをして本日はレインドフ家へ帰宅した。
 エントランスで帰宅したアーク、リテイブ、キルセを見たリアトリスが開口一番キルセに向かって

「逝ってきたんじゃないのですかー」

 と言いだした。

「そう簡単に死ぬかよ。つーか、そんな死ぬかもしれない物騒な出来事には遭遇していないって」
「まぁまだフラグはへし折られていないので頑張ってくださいです」
「お前はどうあっても俺を殺したいらしいな」
「そんなわけないじゃないですかー。埋葬くらいはしてあげる程度に悲しんであげますですよ」
「埋葬してくれる程度にしか悲しんでくれねぇんじゃねぇか!」
「仕方ないですねぇ。十年に一回は墓に花を添えてあげますよ」
「せめて命日の日には毎年くれよ!」
「あ、キルセ死ぬんです? いつどこでどう死ぬか詳細に告げてから死んでくださいですよ。じゃないと遺体が腐って蠅が湧いてきて、蛆が湧いてきて、目玉が腐り落ちてうわーキモイキルセが完成するのは気持ち悪いんで御免です」
「勝手に殺すな!」
「命日にはっていったじゃないですかー!」
「はぁ……もういいや。状況説明するからリビングいくぞ。リアトリス、紅茶でも入れてくれ」
「人をこき使うなんて何さまです? まぁ、仕方ないですからいいですよーいこっカトレア」
「うん」

 リアトリスがカトレアの手を引いてお茶を入れにキッチンへ向かう。
 リビングに向かったアークたちは、それぞれ椅子に座った。程なくして感謝して下さいね、と一言一言ご丁寧にいい回りながらリアトリスがテーブルに紅茶を置く。
 全員着席してから、キルセは街で入手した情報を伝える。慌てて逃げた跡満載の拠点のことも詳細に。

「それ、答えは簡単だろ。お前ら三馬鹿か?」

 簡単な答えにも気がつかないのか、とリィハがため息をついた。
 リテイブは馬鹿と言われてとりあえずリィハを殴るか、と思ったがキルセに止められた――殴っても簡単に吹き飛んでストレス解消にならないから止めろ、と。キルセの止め方もたいがい酷い。

「で、どういうことだ?」

 アークが問うと、リィハは、紅茶を一口飲んでから答える。

「あのさ、アークとリテイブは確かに強いけどよ、情報収集していた所って“街”だろ? 路地裏とか、人通りが少ない場所だったにしろ、人がいる街にお前らはいたんだ。お前らその一般市民にまで一々反応していたのか?」
「あぁ……成程」

 キルセは額に手を当てた。何故そんな簡単な答えに、始末屋と元殺し屋はともかく庭師である自分が気付かなかったのか、恥ずかしくなってくる。

「そういうことだよ。殺気だった人物がいたなら、そりゃアークやリテイブが気付かないはずがないけど、その付近を偶々通りかかった一般市民がいたとしても気に留めないだろう。街に人がいるんだから、人の気配なんてありふれているんだ。異様な気配なら感じても普通の気配は気にしないから記憶にもとめないし、記憶にも残らない」
「……確かにな。殺気とか敵意じゃない気配なんて一々気にもとめねぇな」

 リテイブの言葉にだろう、とリィハは頷く。

「だから、お前らが、下っ端青年を脅していた時、どっかから殺意も敵意もなく見ていた奴がいるんだよ。通行人が他の通行人を偶々目に入った、程度の感覚で。会話内容なんて聞く必要もない。下っ端青年を脅せば情報は簡単に吐くことなんて容易に想像がつくだろうし、下っ端たちがレインドフの始末屋を殺せるなんて思ってもいないだろ。だから、下っ端青年が殺されかけよとしていたってそこに感情を混ぜる必要はない。ただ、下っ端たちのアジトに連絡だけいれればいいんだ。まぁ放置して死なれても構わなかったのかもしれないが、下っ端には下っ端の使い道があったから逃がしたんだろ」

 下っ端と余りにもリィハが連呼するので、流石にかわいそうじゃないかとキルセは思うが、殺した自分がかわいそうだろ、というのは何か違う気がして黙っていた。


- 15 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -