W 「そういやさ、料理人のことに関して、気になることがあるんだよな。俺の思いすごしだといいんだけど」 キルセはカトレアと街へ買い物に行った時に聞こえた『――ドフ』のことを部屋に籠っているリテイブを除いて話した。思いすごしならいいが、善良な貴族ではない、呪殺されても不思議ではない貴族だ。何かある可能性は多いにある。 「そうなんです? それは……本当でしたら潰して置いた方がよさそうですねー」 リアトリスの言葉にキルセは少なからず驚愕した。 あのリアトリスのことだ、ほっといても構わないですよーや、邪魔をするなら千切りにすればいいんですーとか言うのを想定していたからだ。 「何、意外そうな顔をしているんですかー。当たり前ですよ。主だけを直接ざく切りにするならまだしも、この間の料理人みたいな手段に出てきたらどうするんですか! カトレアが巻き込まれる可能性なんて零%でもあれば殺すに決まっているですよ」 零%だったら殺さなくてもいいだろう、との突っ込みをリィハはしなかった。心臓は失いたくない。 「主。キルセの耳にしたのがレインドフであるかどうか、確かめましょーですよ」 「そうだな」 「危険な芽は摘んでおくのが正解だろうな」 キルセたちが会話をしていたエントランスに、手すりを使いながら階段をリテイブが降りてきた。キルセはリテイブがいない者だと思っていたが、実際は聞き耳を立てて会話を聞いていたのだろう。 服装はアークの部屋から再び盗んだのだろう赤のストライップが入ったワインレッドのシャツを七分になるまで袖まくりをし、白のズボンをはいていた。 キルセは自室に泥棒が入っても問題がないように、部屋を綺麗にしてあるが、アークの部屋の服を中心に泥棒が入ることをみると、キルセの服装は泥棒の好みではないのだろう。 「おや、初めて意見があったですねー! ってかどうしたんです? 天変地異の前触れです?」 「……やっぱお前から先に殺すべきか」 リテイブの手には銀ナイフが握られていた。関係ないリィハが思わず身震いをしながらキルセの背後に隠れた。一方のリアトリスは口元を愉快そうに歪めていた。 「馬鹿じゃないですかー。いくら、リィハに治療してもらったからって万全じゃない殺し屋が私に勝てるとでもまだ思いあがっているんですか? だったら相手して上げてもいいですよ」 リアトリスが腰のリボンに手を当てた。 「……ちっ」 渋々感満載だったが、リテイブはナイフを懐に仕舞った。 「じゃあ、とりあえずキルセが耳にしたのがレインドフかを確かめて、本当だったら始末するか」 アークの言葉に、レインドフ家の面々は頷いた。そして、リィハとカトレアはお留守番をすることになった――当然だが。 [*前] | [次#] TOP |