零の旋律 | ナノ

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 ある日料理人が増えた。

「なんか働きたいって言われたから連れてきた」
「なんだそりゃ」

 アークの言葉にキルセは呆れるしかなかった。


 料理人が増えたことで、折角だから美味しい料理が食べたいとさっそく料理人に夕飯を任せている頃、治癒術師リィハは帰宅準備を始めていた。

「ん? リィハ。数日は此処にいるんじゃなかったのか?」

 それを目撃したキルセは首を傾げる。

「用事が出来たから今日は一旦帰る。また明日にでも来るわ」
「ふーん、デート?」
「ばっ! 違うわボケ」
「そうか、デートか」
「何、リィハはデートすんの?」

 そこへアークも加わる。リィハは黒の帽子を被りながら舌うちをした。

「違うっていってんだろ。じゃあ、俺は明日また来るけど、折角来た料理人うっかり殺すなよ? じゃーな」
「はいよ、また明日」

 リィハがレインドフ家から出てから一時間後、料理人が腕をふるった料理がテーブルに並んだ。
 そこにはリテイブの姿もある。リテイブの白髪は下ろしたまま、服装はアークの部屋から勝手に漁ったと思われる赤のカラーシャツに黒のズボンを着た格好だった。不機嫌さは隠していないが、それでも食事に呼んできただけ、ましというものだ。
 リテイブはとりあえず椅子に座っている面子を見渡して、カトレアの隣に座ろうとしたらリアトリスに睨まれたので、キルセの隣に座った。つまり、リアトリスとアークの隣には座りたくなかったのだ。といっても、結果的に向かう会う形にはなるのだが。
 アーク、リアトリス、カトレアの順番に横に座っており、向かいあう形で、リテイブ、キルセ、料理人と座っていた。

「じゃあ食べるか」

 頂きます、と言ってから料理人が作った料理をアークが一口食べていた瞬間、開いていたはずの左手がナイフを掴み、滑らかな動作で投擲された。それは寸分の狂いもなく障子に手をつけていなかった料理人の喉元を貫いて絶命した。

「はぅ?」

 リアトリスが口に含もうと思っていたスプーンの手を止めた。スプーンにはビーフシチューが並々になっている。

「とりあえず、カトレアは食べちゃ駄目ですよ」

 カトレアの心配を真っ先にする。いきなりアークがご乱心をして料理人を殺したわけではない――はずだ。

「で、どうしたんです、主」
「毒が入っていた」
「ほわわ」

 アークの返答に、リアトリスはあろうことかスプーンを口に運んでもぐもぐし始めた。

「あわー本当です。微妙に変な味するですね、香りだけじゃわからなかったですよ」

 リアトリスの言葉に続いてリテイブも料理を口に運んだ。

「料理に毒なんて盛るなよ」
「本当です、カトレアがうっかり食べたらどうするんですかって! 主! 先に殺さないで下さいよ! 私が始末にしたのに! 後一撃で殺さないで下さいよ! 勿体無い!」

 リアトリスの怒りは毒を全員に持った料理人に向けられていた。当然だろう、カトレアが万が一アークより先に食事をしていた場合、死んでいたのだ。

「同感だな、なんで毒を貰ったのか聞いてねぇのに簡単に殺したら原因がわからねぇだろ」

 リアトリスの理由とは全く異なるが、リテイブも同意する。生きていればいくらでも理由を聞く手段はあるが、死人に口なしだ。

「ってか、毒あるってのに食べるなよ!」

 流石にキルセが黙っていられなかった。食べるまで毒が盛られているかわからなかったアークはまだしも、毒があると言われて口に含む奴らの神経が理解不能だ。

「主が生きていられる程度の毒なら食べても大丈夫ですよ―」
「同感だな。その程度の毒で死ぬかボケ」
「カトレアには一口も上げられませんけどですけどね!」
「カトレアがうっかり食べたら困るからな」

 カトレアだけには食べさせられない、食べたら困るから料理人を殺した、とアークとリアトリスが毒を食べた後とは思えないほど呑気な会話をする。

「って待て! 俺も食べたら死ぬからな! 死ぬからな!」
「「「……あ」」」

 三人の言葉が見事に刹那のずれもなくハモった。

「あっ! て、なんだ、あって! お前らみたいな元殺し屋や元暗殺者や現仕事中毒と一緒にするなよ!? そんな特殊能力持ってないからな! 俺は死ぬからな!」

 精一杯の主張をするが

「キルセならきっとなんとかなるですよー」
「まぁ何とかなるんじゃね?」

 受け入れてはもらえなかった。

「俺の扱い酷くね!?」
「キルセですからー」

 さらりと、流された。


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