零の旋律 | ナノ

滑稽な子


 意識が内側から外側へ浮上する。
 あの子は人を殺して満足したから眠った。俺はあの子がしたこと後始末をするために、表層に出る。死体を両手に俺はあの子ではなく現場に対して舌うちした。朔の日とはいえ、此処は人通りの多い道、街灯もあり俺の素性は隠し切れていない。そんな場所で人を殺せば目撃者が現れても不思議ではない。それは俺にとって困ること。今さらながら、俺はフードを被る。

「お、お前此処で何をやっている!!」

 目撃をしやがった相手に対して俺はため息をついた。見られた以上あの子の存在を脅かす人間をいかしてなんておけない。俺は刀を抜き、切り殺した。既に浴びている返り血をこれ以上増やさないよう気をつけながら。

「全く死体が三つに増えてしまったじゃないですか。俺の仕事増やさないで下さいよ」

 目撃者が増え続けるのは面倒だ。さっさと俺は死体を別の場所に移してから、あの子の犯行だとばれないように後始末を行う。
 人を殺すのが怖くて満足に刀も震えないのに、人を殺したくて仕方ないあの子。
 滑稽なあの子を俺はただ守るだけ。
 後始末を終えた俺は、銀波の名前に与えられた部屋に戻って血を洗い流す。銀髪は好きだけれども、闇夜で行動するのには向かないし目立つのは困りもの。何より返り血が映える。
 人を傷つけるのを躊躇するあの子の毛に血があればおかしいと気がつかれる。それを避けるために、俺は髪だけじゃなく返り血の跡がないか入念に確認しなければならない。俺はあの子を守る存在だけれど、あの子に少しだけいいたいことがあるとすれば、もう少し返り血を浴びないように人を殺してほしいと思う。
 血の後始末を終えてから、俺はあの子が睡眠不足で倒れないよう眠りつく。
 意識が外側から内側へ沈殿していく――



「銀波、起きているか?」

 翌朝、あの子は目覚める。そこへ、やってきたのは時たま一緒に行動をする久凛という女性だ。

「うん。おはよう、久凛どうしたの?」
「また殺人鬼が現れた。今度は三人殺したそうだ。本来、私の担当ではなかったが、方針が変わり、暫く私とお前は一緒に行動することになった」
「わかったよ。すぐ準備していくね。……どうして、殺人鬼は人を殺すんだろうね」

 あの子は滑稽。
 だから、自分で自分を探していることになんて気がつきもしない。
 あの子はその可能性に目をそむけているから気がつけることもない。

 だから今日もあの子は殺人鬼を追うために動き出す。
 愚かで滑稽で、俺の大切な銀波


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