さいていある 千里が類とも組織にきて数日後、デートに出かけようとしている依有に千里が遭遇した時のことだ。 今からデートなんだ、と毎日が初恋のような表情をしている依有を見ると殺したい衝動が沸々とわき上がってくる。しかし、これから裏咲が作ったイチゴタルトを食べるのに依有の相手をして時間を浪費したくないと千里はスル―しようとしたが、依有の方が目線を合わせてきた。 「何」 依有はふと、気になっていることを千里から話しかけてきたのだから聞いてみようと口を開いた。 「ねぇ、千里はどうしてそんな足を出しているの? 怪我しやすいでしょ」 何気なくいった言葉に、千里は酷く傷ついた。もう依有のことは大嫌いでしかないのに、それでも傷ついた。 「な、な、なっ!?」 千里の動揺もお構いなしに依有は続ける。 「長ズボンの方がいいんじゃないの?」 さりげない気遣いも依有が発すると悪意にしか聞こえない。依有が自分と恋人同士であった時の出来ごとなど忘却しているだろうことは、依有の態度から薄々感じ取っていたが、それでも――依有が綺麗だと褒めてくれたから、依有がお洒落に全く興味のなかった自分に選んでくれた服が短パンだったから、今でも履いているのに、お洒落に興味を以前より持てたのに、そのことを依有は全く覚えてない。 此処で、依有が勧めたからだ! と叫んでもそうだっけ? と依有は笑いながら首を傾げるだけだ。それが無性に腹立たしくて、悲しい。 「死ね!」 千里は悲しみを全て塗り潰して依有に殴りかかったが、依有がひょいと交わす。依有が動いたことで、ワイシャツの中に隠れていたネックレスが姿を見せる。 それは――シルバーで出来た片翼がモチーフのネックレスだった。 以前、千里が依有と恋人同士だった時、依有にプレゼントしたものだ。もう捨てているものだと思っていた。自分を捨てたのと同様に。 「依有、そ、そのネックレスは?」 恐る恐る問う。もしかしたら――ネックレスのことだけは覚えているのではないかと微かな希望を持って。 「え? あぁこれいいよねー。、買った記憶はないんだけどさー、きっと僕が街で見かけて気に入って買ったんだ」 だが、淡い期待は打ち砕かれた。 依有がそういう奴であることはわかっているのに、期待した自分を殴りたくなった。 「死ねこら!!」 千里は再び依有に殴りかかった。 +++ 「おい、千里何しているんだ?」 夕食の時間になっても現れなかった千里を迎えに、未継が部屋へいくと隅っこで千里は丸くなっていじけていた。 「千里?」 「……ウチが上げたの……」 「? ……もしかしてネックレスか」 依有と千里のやりとりを裏咲から聞いていた未継は、千里が落ち込んでいる原因が依有であるとすぐにわかった。 「うん。依有の奴忘れてやがった……ウチが短パンなのも依有が勧めてくれたからのに……全部忘れてた!」 「あぁ……どんまい。依有はそういう奴だ。さっさと最低な依有を殺してしまえ」 「そうする」 「さ、夕飯だ。食べるぞ」 「……夕飯当番が依有だったら食べない」 [*前] | [次#] TOP |