飽くなき戯れ 「私は架秦を愛しているよ!」 声高に宣言をする玲瓏たる美声。無数に迫ってくる赤は、折り紙で作られた薔薇。彼女は襲いかかってくるそれらが“爆発”する前に、手にした大鎌を滑らかな動作で操り切断する。 力を亡くした薔薇の折り紙は地面に散り姿を消えると、次なる薔薇が迫ってくる。 大鎌を構えたが、振るうそのタイミングを見計らい直前で爆発させるだろうと第六感が告げる。後方へ跳躍すると、薔薇が連続して爆発をした。爆風と共にパープルの髪が靡き頬につく。 「俺はお前が嫌いだ! だから殺してやる。さっさとこの世から消えされ」 先刻から彼女――久凛に攻撃をしていたのは架秦だ。架秦は反吐が出ると言わんばかりの嫌悪感を露わにしながらも口元は避けるのではないかというほどに笑みを浮かべていた。 架秦の掌から無数の薔薇の折り紙が舞う。魔術を編み込んであるそれは任意のタイミングで爆発させることが出来る。順番に爆発させていくことで、久凛の退路を塞ごうとするが、その思惑にハマる久凛でもない。 大鎌で爆風をなぎ払うが全部を払うのは無理だと怱々に判断した久凛は、周囲に氷の壁を張り巡らせて爆風から身を守る。 「全く。架秦、君はどうして私の愛に応じてくれない」 「充分応じてやっているだろうが!」 「愛ではなく殺意じゃないか。私は殺し愛がしたいわけじゃなく、愛し合いたいのだけれども」 「反吐が出るほど御免だな。俺はお前が大嫌いだ。お前以外の人間は大好きだが、お前だけは例外だ」 「それはそれで身に余る光栄だ。嬉しいよ。その事実が君の中で私を“特別“に認識してくれる証だからね」 氷の壁に亀裂が入る。久凛は飛び退くと氷が爆発で破壊され、破片が飛び散る。 「けっ」 「君は人間全てが大好きだ。その中で唯一嫌いといってもらえるのは他のどんなことよりも光栄だろう? いうなれば、私だけが君の認識、その外枠にいられるというわけだ。ただ、私はそれでも君を愛しているから、君にも大嫌いでありながら愛してもらいたいものだね!」 大鎌を振るうと疾風が生み出される。架秦が軽やかな身のこなしで跳躍するし回避する。懐からヒマワリの折り紙を取りだし放り投げる。 爆発に冷気が混ざり合う。攻防が楽譜に沿って演奏されているかのように、続く。 「嫌いで愛してもらいたいとか矛盾しているだろ。嫌いは嫌いだ。愛には移りかわらねぇだろが!」 「そうかい? 君の価値観というか……生き方は“変”だからねぇ、一見すると矛盾のような行いとて行えるよ。それに嫌いの対義語は愛ではないしね」 飽くなき続く攻防の連鎖に一時的終止符がうたれたのはそれから一時間後、久凛が架秦の攻撃を捌き切れず腹部に怪我を追った時だった。 [*前] | [次#] TOP |