零の旋律 | ナノ

咲の正体


 依有の元恋人にして依有が殺し損ねた千里が類とも組織にやってきた時のこと。
 千里はきょろきょろと組織の内部を見渡す。人を探しているようだと気がついた未継が声をかける。

「千里だっけ? なにしてんの? 依有でも探してるのか?」
「依有は死ねばいいけど、違う。ウチが探しているのは咲って女。どんなのか折角だか
ら気になって」

 三日間だけ依有と付き合っていた時言っていた、依有の友達で咲と呼ばれていた手先が器用で可愛い料理やぬいぐるみを作る女がどんな人物なのか、折角だから会ってみたかったのだ。
 ツインドリル頭の少女こと都音とは先ほど出会った。見事にツインドリルの頭だったので一発で発見出来たのだが、咲は見つけられなかった。

「は? 咲?」
「そう。咲って女で依有の友達。いるだろ? ウチのイメージだとふわふわした可愛くてちまい子なんだけど、見つからないんだ」

 誰をさしているのか見当はついた未継だが、何故“咲”が女になっているのかの見当がつかない。

「……咲って女は類ともにはいないぞ」
「へ? いやだって依有が」
「咲って男はいるけどな」

 未継が指をさした先をつられて千里が見ると、そこには――赤髪をサイドテールに纏めた、やたらモコモコしている“男”が歩いていた。

「は? へ? え!?」

 千里が思わずやたらモコモコしている咲(男)に走って近づく。急ぎ過ぎて衝突しそうだった。

「あんた咲!?」
「え……えぇ、どうしたのですかいきなり」

 突然眼前にやってきた少女に咲(男)は困惑する。

「偽物じゃなくて本物なんだな! って、は!? え、じゃあ可愛い料理を作って可愛いぬいぐるみを作る依有を振った友達ってあんただったのか!? え、男!? 女じゃないのか!? つか、そうかオカマか!!」
「大分混乱しているようなので依有を殺してくることを推奨します。何を勘違いしたのか知りませんが、オカマじゃありませんし、女でもありませんよ」

 依有とどう会話をしたら女だと勘違いされるのか理解出来なかった咲こと裏咲は、今度依有に服のほつれを直してと頼まれても拒否しようと決めた。

「はぁああ!? だって、あんた。名前だって咲なんだろ!?」
「正しくは裏咲、ですけどね。依有や未継は咲ってあだ名で私を呼ぶんです」
「つか、ってかえ、いやそれより依有がふられたっていってたぞ!? あんたが男なら、え、どいういうことだよ」
「依有は老若男女問わず、誰構わず付き合いたがる奴ですよ」
「え……まじ?」
「まじです」
「嘘ついたら針呑ますぞ」
「針を何処から調達するかは聞きませんが、真実ですよ」
「…………うそおおぉおお!」

 類とも組織に来て色々な真実を知った千里はその日、組織全体に響くほど叫んだ。


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