零の旋律 | ナノ

三日目


 三日目、依有は時間通り千里の自宅を訪ねた。
 千里がらしくもなくエプロン姿で依有の前に姿を現す。

「エプロン? 明日隕石が降ってくるの?」
「開口一番失礼なやつだな!」

 隕石の変わりに且つ、日付が前倒しで鉄拳が降ってきた。
 回避が間に合わなかった依有は頭に両手をあてながら

「痛いよーもー」

 と抗議をした。勿論千里はスル―して依有に背を向ける。依有に表情を見せない所で千里は笑っていた。

「で、千里どうしたの?」
「昨日、依有に御馳走してもらったから、ウチも御馳走してあげようと思っただけだっ。そりゃ……一日じゃ料理上手になれんかったけど」
「そっか。有難う。千里の料理楽しみだよ」

 えへへ、とはにかむ依有は部屋に入って二日目なのに勝手知ったるままに椅子に座って千里の料理が出てくるのを待っていた。
 依有の来訪に合わせて料理を作っていただろう千里の手料理は程なくして完成した。
普段は食べられればそれでいいといった料理をしないでそのまま口に運ぶような千里だったので、複雑な料理は作れない。
 簡単にサンドイッチを皿に並べる。サンドイッチの中身はデザート系から肉系、野菜系まで種類を豊富にしていた。
 料理に自信がないからどれか一個くらいは美味しいだろうと思って数撃てば当たる作戦をとったのだった。

「沢山作ったね―」
「難しいのは作れないから、出来そうなのを片っ端に。まずいったらぶっ飛ばすぞ」
「大丈夫だよ。まずくても美味しいって言ってあげるからー」
「なら美味しいっていってもぶっ飛ばす」
「酷いなぁーもう」

 依有がまずは蜜柑や林檎が挟まったサンドイッチに手を伸ばす。

「うん。普通に美味しいよ」
「普通にってなんでだよ!」
「正直な感想って所だよ。味を聞かれたらそう答える。でも、僕のために手作りの料理をしてくれたっていう気持ちを現すなら嬉しいだよ」
「まぁ……うん」

 鉄拳は飛んで来なかった。

「……あ、あのさ」
「なーに?」
「そういや、あんた昨日仲間内で一番料理上手って言ってただろ?」
「うん。言ってたね―」
「その仲間内ってやっぱその……可愛い子とかいるのか?」
「んー? いるよ」
「ど、どんな」

 あっさりといると返事が来て千里は思わず会話を続けた。生まれてこの方恋愛をしたことがないから、依有の交友関係が――ともすればしつこい女と取られそうだが――気になって仕方なかった。初恋故の千里にとっての嫉妬心とやらか。

「ツインドリルの髪型で、僕より年下の子。お人形みたいで可愛いよ」
「そ……そうなのか」

 しょぼんとする千里に依有は苦笑する。

「大丈夫大丈夫。彼女は僕のこと嫌いだから」
「なんでだ?」
「んー性格の違いかな?」

 あっさりと纏めたが性格には老若男女問わず付き合う依有と、恋愛観念を大切にする同性愛者の違いからだ。

「他にはどんな友達がいるんだ? 料理上手とか」
「んーそうだなぁ咲が結構料理上手だよってか、可愛い料理作るね―」
「可愛い?」
「うん。例えばカレーのニンジンを兎型にしたり、ジャガイモを星型にしたりするの」
「手先が器用なのか?」

 器用さが“可愛い”料理に必要なのかは判断がつかないが、器用なのだろうと思って千里は質問を続けた。

「まぁ器用ったら器用だね。料理だけじゃなくて、可愛いてのこんだぬいぐるみとか暇さえあれば作ってるよ。衣装とかも自作して着せてるし」
「それは……凄いな。ウチには無理だわ」
「そうだね」
「うるせぇ!」

 千里が依有の脛を蹴った。

「……依有は、そいつ好きになったりしないのか?」
「あははっもう振られてる―」
「……依有を振るとか、何様だ」
「貴方と付き合うくらいなら自害しますって言われたー」
「ほんと何様だよ。つーか、あんたの友達は仲が悪いのか?」
「そんなことはないんだけどね」
「ふーん」

 千里の中では咲こと裏咲のイメージが可愛らしい少女として形成されていた。しかし実際のところは可愛いぬいぐるみを趣味で量産する180超えの野郎である。依有が両刀だとは知らない千里からすれば、女をイメージするのも無理からぬことであった。

「そうだ、依有。ちょっと待ってろ!」
「なにー?」

 千里はうっかり忘れていたのを思い出した、と慌てて自室へ駆け込んだ。部屋からバタバタドガドガと家探しをする音が聞こえてくる。暫くして雪崩が起きたような音も聞こえていた。何をしているんだろ、と依有が呆けながらいると程なくして部屋の中と格闘をしてきた千里が姿を現した。

「これ、やる」

 そう言って手渡したのはラッピングもされていないままのネックレスだった。シルバーの片羽がデザインされている。

「有難う。どうしたの?」
「ふ、服はまた今度だけど、貰いっぱなしは嫌だったからウチからのお返しだ。ありがたく受け取れ!」
「うん、受け取るよ。有難う」

 依有が首からネックレスをぶら下げる。依有に似あえばいい、と依有の顔を思い出しながら選んだかいがあってピッタリだった。少なくとも千里はそう思った。愛らしい、と。


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