二日目 翌日も依有は千里の家へ来た。 「今日はどこに行くん?」 千里が依有に貰った格好で出迎えるとしかし違和感があった。 「ん? どうしたんだよ、その荷物」 依有の手には沢山の荷物がぶら下がっていた。 「千里に手料理をごちそうしようかと思って。あと、千里に似合いそうな服を何点かチョイスしたから今度きてよ」 「……依有の料理は楽しみだけど、服とかウチが貰ってばかりなんて不公平だ。ウチも千里に何かプレゼントするから顔を洗って待ってろよ!」 「あははっ最後なんで喧嘩腰なのさ。うん、じゃあ――楽しみにしているよ」 「待っていろよ! 逃げるんは許さないからな。まぁ――今日は用意出来ないけど。ほら、依有……部屋に入れ。ウチのために料理作ってくれ」 「勿論。千里の好みに会うかはわからないけど腕をふるわせてもらうよ」 「……まずくても食べるに決まっているから安心しろ」 千里の呟きは微かに声になっただけだったため依有までは届かなかった。依有が台所で料理を鼻歌交じりに作っている時、椅子に座りながら香ばしい匂いを千里は満喫していた。美味しそうな匂いで途中腹がぐぅーとなり、依有に笑われたので手にしていたグラスを思わず投げた。投げてからしまったガラス製だと気がついたが、惨事になることはなく依有が後ろをみたまま器用にグラスを受け止めた。 「全く、千里。物は投げちゃ駄目じゃん。グラスとか武器じゃないんだから」 「目の前にあったからついだよ」 「ついでもさ、ほら普段から武器にしていないものを普段の加減でなんて扱えるわけないんだから」 「わ、悪かった」 「ううん。思わず笑った僕も悪かったわけだし」 「それについては後で殴らせろや」 「なんでさ」 「ウチの気がすむまで」 「僕ボロボロになっちゃうじゃん」 あはは、と依有は笑いながら料理を着々と進めていく。 依有の手作り料理がテーブルの上に並べられる。上品な食器が千里の家にはないことを予め見越していた勢いで食器まで依有が持参していた。隙のない行動にいらついた千里は思わず依有を殴ったら、お返しとばかりに依有も千里を殴った。 依有の料理は漂ってきていた香ばしい匂い以上の美味だった。舌がとろけるとはこういう料理に使うのかと思うほどに美食。普段食事には余り拘らず食べられればそれでいい千里だが、一度依有の料理を味わってしまうと料理一つ一つに味の上下があることを実感してしまう。 「うまいっ! 依有あんたって料理上手とか意外性あるんだな! いや、意外性ありすぎて逆に普通なのかもしれんけど」 「酷いなぁ。僕是でも昔から料理は上手なんだよ。仲間うちでも一番上手だしね」 「そういや、依有は普段何をしているんだ?」 「なーいしょ」 「教えろよ。ムカツク」 千里が手を出そうとしたら依有が口元に中指を当ててきた。 「せめて食事が終わるまでは暴力禁止で」 「む……わかったよ。その代わり食事が終わったら二倍な」 「酷いなぁ。じゃあ僕はそれらを交わすから宜しく。痛いのは御免だよ」 「やっぱりムカツクから、三倍で」 「増やさないでよ! 全部千里の攻撃回避するのは大変なんだよ」 「だったら回避しないで殴られればすむだろ。そうすりゃ、四倍ですむんだから」 「だんだん回数が増えているよねそれ」 「依有が喋るほどに増えていく仕組みだからな。五倍」 「あははっ。ほんと千里って面白いよね」 六倍、七倍と増えて言っても依有は口を紡ぐことなく千里と会話をしていった。因みに千里は七倍八倍といったことを前言撤回するつもりはなく、食事後の運動は激しかった。カロリーを全部消費する勢いで千里は依有に殴りかかったし依有は回避し続けた。 [*前] | [次#] TOP |