零の旋律 | ナノ

裏咲の災難とその後の幸運


 ある日の類とも組織。白いモコモコで背中が覆われた裏咲の元へ、ツインドリル頭の少女都音がやってきた。

「どうしたんです?」

 依有程ではないにしても、複数人の女性と過去付き合ったことがある裏咲の元へ、異性愛を苦手としている都音がやってくるのは珍しかった。

「また依有が女性と付き合って三日で殺害したらしいですわ。裏咲。さっさと依有とくっついて頂けませんかしら?」
「断固拒否します。大体、依有がつき合ったところで、私が二週間後に殺されるのがオチでしょ」

 裏咲は心底嫌な顔をして拒絶をするが、その程度で折れる都音でもない。依有がとっかえひっかえに恋人を作るくらいなら、同性の裏咲が依有にとっての恋人になればいいと常々思っているからだ。

「大丈夫ですわ。二週間は付き合えるだろうねーと依有は公言していますけど、実際は一番嫌いではない人間なんですもの、そうは殺しませんわよ。わたくしの見立てですと、好きになるために殺さないでどっかに監禁して大切に生かしてくれますわよ」

 依有は殺しては新たに恋人を作るが、恋人が生きている期間、別の誰かに手を出すことはしない。
 故に、裏咲が生きていれば別の誰かと依有が異性とつき合うこともない。

「もっと御免です! 依有に監禁されるくらいなら舌噛み切って自害しますよ!」
「治癒術を扱える依有ですし、簡単に自害させてはもらえないと思いますわ」
「なおさらのこと御免ですよ……そんな依有に飼われるような生活。そもそも、同性で且つ依有なんかと付き合いたいわけないでしょう」
「大丈夫ですわ。依有でしたら無理矢理裏咲を捕えて“付き合う”ことにするでしょうから」
「寒気がします」
「それでは、早く付き合って下さいね」

 会話は終わったばかりに都音は優美に手を振りながら去って行った。
 都音の後姿を眺めながら、裏咲はいざという時の為に、自害するための毒を探しに行こうと決意した。



 月日は過ぎさり

「てめぇっ! さっさとウチに殺されろやぁ!」

 鋭い拳が、彼の間を通り抜ける。

「あははっ。相変わらず猪突猛進だね。猪だってもう少し頭を使って突進してくると思うんだけど?」

 挑発をしながら彼は指の間に挟んだ針を投擲する。

「んなことしるかよぉ!」

 激しい攻防が繰り広げられる。依有の元恋人である千里が類とも組織に依有の死体を求めるという理由でやってきてから、依有と千里が殺し合うのは日常風景だ。
 その光景を眺めながら裏咲は心底ほっとした。

「中々結婚しなくて早く孫の顔が見たいわって思っていたら娘がようやっと彼氏を連れてきた時の母親みたいな顔をしているけどどうしたんだ?」
「未継……その例えなんですか。いえね、是でひと安心だと思いまして」
「は?」

 わけがわからず未継は首を傾げる。依有と千里が殺し合っている場面を見て何を安心するというのだ。

「だって彼女と依有が一緒にいれば、都音が私に依有と付き合えと無茶を言いだしてこなくて済むじゃないですか!」
「あぁ。成程」
「都音は異性愛が苦手ですけど、それ以上に二股とかそういうのを嫌いますからね。彼女がいる限り、私は安泰です。よかったよかった」
 
 裏咲は満面の笑みを浮かべていた。



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