零の旋律 | ナノ

お裁縫セットのある日2


 雲ひとつない晴天。澄み切った空。心地よい春風。小鳥の囀りが眠りを誘うある日の昼間の出来ごと。

「おっはよー」

 正式名称ザイン。世間認識類とも組織の一室。扉が壊れる勢いで開かれ元気のいい声と共に少年が入ってきた。

「依有。もう昼間だぞ、こんにちはのじか……ってはっ!?」

 人間から刳り抜いた目玉を特殊な液体が入れられたガラスケースから眺めていた未継は、依有がやってきたことに驚いて思わずガラスケースが手から落下した。

「あぁあああ!?」

 未継が悲鳴を反射的に上げたが、地面へ落下するスレスレの空中でガラスケースは止まった。

「全く何をやっているんですか……っては?」

 依有の方を全く見ないでぬいぐるみを作っていた裏咲は、反射的に糸で未継の大切な目玉を受け止めた。その後、何をしているのかと呆れながら依有を見て固まった。

「貴方……星はどうしたんです?」
「えへっ。飽きたからやめたよ」

 依有がにこやかな笑みを浮かべて答える。

「……俺の記憶が確かなら、お前昨日までは緑に髪を染めて星を描いていたよな! それがどうして今日になったら飽きたって理由で、ピンクの花模様に染まっているんだよ、髪が!」

 未継が叫ぶ。昨日まで依有は自前の白髪を下の部分だけ緑で染め、さらに所々どうやって染めたのか謎な星柄にしていた。それが、一転今日になると緑の部分がピンク色に変貌し、さらに星柄は花柄になっていた。

「だから飽きたんだよー」
「俺の記憶が正しかったら二か月前は黄色に染めて、ハート模様にしていたのな!? そしてさらに半年前は赤の血飛沫模様だったよな!? 飽きすぎだろ!」
「よく覚えているね―。言われなきゃ僕はもう忘れていたよ」
「あんな特徴的な頭どうやって忘れるんですか」
「え? 普通でしょ」

 依有は何故、未継も裏咲も他人の髪型を覚えているのか不思議だった。

「普通の奴は、血飛沫とかハート模様とか星柄とか水玉とか市松模様になんて髪染めねぇからな!」
「同感です」
「えー」

 そんな何時もの日常。


 余談だが、どうやって染め直したのか、どうやって染めているのかは類とも組織の七不思議に数えられている。


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