零の旋律 | ナノ

お裁縫セットのある日



「で、今度は何をやらかしたのですか?」
 暇つぶしに糸でクッションを編み上げている裏咲が、頬を赤くはらしている依有に問う。

「何って、殴られただけだよ」

 頭を花柄に染めている依有が、簡潔にそして爽やかに答えた。

「肩がぶつかっただけで殴りかかって来てさ―。いやー変わった女性だったからその場で付き合うことにしたよ」
「早っ」

 未継が鋏で枝毛を切りながら驚いて、誤って枝毛以外が切れた。

「はぁ……了承は得たんですか?」
「勿論だよー」

 依有が頬に手を翳すと、淡い光が漏れだし、治癒術が傷を瞬く間に完治させる。

「というわけで、是からデートしてくる」

 ファッションに問題ないか鏡を見て確認する姿はさながら恋人との待ち合わせをしているようだ、しているけど。

「いってらっしゃい、どうせ三日後にはその女性を殺して戻ってくるんでしょうけど」
「酷いこと言わないでよ―今度こそ好きになれるかもしれない人に!」
「かもしれないっていっている時点で、好きになるわけないでしょうが……」

 裏咲があきれ果ててため息一つ。

「同感ってうおっ! あぶねっ」

 未継は鋏を指で回しながら裏咲に同意すると同時に、うっかり鋏が指から飛びぬけて顔面に刺さりそうになった。

「むー。見てろ、好きになって見せるから!」

 依有はそう言って飛び出して行った。



三日後

「おかりなさい。で彼女はどんな人だったんですか?」

 三日間彼女に尽くしたのだろう依有が、三日ぶりに組織に戻ってきたのを裏咲と未継が迎える。

「彼女? あーと、どんなんだっけ、顔も名前ももう忘れちゃった。さて、次は誰にしようかな―」
「ほら見なさい。やっぱり三日で戻ってきたじゃないですか」
「むー。じゃあ僕、咲と付き合うよ。咲となら二週間は付き合えると思うし」
「全力でお断りします」

 さりげない告白のようなものに、全力で裏咲は否定する。断固拒否する。殺気すらにじませながら切り捨てる。

「なんで? ほら僕色々出来るよ! 怪我も治して上げられるし! 咲や未継じゃ治癒術扱えないでしょ! 料理も出来るし、可愛いしさ」
「いりません。あぁ私はいらないので、未継に依有を上げますよ。未継良かったですね、これで脱恋人歴=年齢になりますよ」
「全力で御免だ! って、いてぇぇえ!」

 話を振られた未継も全力で拒否した。力強く拒否するため、椅子から勢いよく立ち上がったらテーブルに肘をぶつけて痛みで暫くうずくまった。

「なんで二人して僕をふるのさ―しかも嫌そうに。僕、もてるんだよ?」
「「なんでお前が次から次へと恋人を作れるかのほうが謎だ。髪に花咲かせているくせに」」


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