零の旋律 | ナノ

Future possibilitiesU


 少年の肩より少しばかし長い赤髪は、数多の血に濡れて生み出された鮮血のようで不気味でしかない。同じ色の瞳は絶対的自信で満ち溢れている。いかな時を生きればそのような瞳であれるのか、少女には不思議でならない。
 黒きマントを羽織る姿は、少年と呼ぶには聊か以上に不釣り合いで、何より目に見えないはずのオーラを具現出来そうなほどの“何か”は少年という存在から逸脱している。
 少女――フォルトゥーナは、この少年を生かしておけないと判断した。生かしておくには、この組織にとって危険すぎる。“殺す”ための『最善な未来』を選択するべく、『異能』で未来を視た。
 フォルトゥーナの異能は可能性の未来を視る力。だから、最善の未来を選ぶため、数多の未来を視る。
 組織イーデムの仲間に告げたように、様々な未来の可能性が、見られる――はずだった。

「ど、どういうこと……!?」

 驚愕の余り、フォルトゥーナの手が震え、槍を零しそうになる。
 あり得ない、今の結果はあり得ないと事実を否定するため何度も異能を使い未来を視る。可能性の未来を探し出す――それでも結果は何一つ変わらなかった。
 何一つ変わってくれなかった。この“少年”と相対した瞬間に全てが塗り替えられた。

「どうした? 未来が一つしか見えなくなったか?」
「……何で、なんで視えないのよ!」

 フォルトゥーナにとって、それは絶望と同義だった。
 数多の選択によって、常に変動する――確定した未来『運命』などないはずの、この世界で、未来が確定していた。
 可能性の未来が、唯一絶対の未来へ変化していた。おぞましくて、全身が震える。『異能』がおかしくなったわけではない。レガリアと名乗った少年のせいだ。少年の身体を借りた“化け物”は何者だ。

「なんで! なんで一つしか未来が見えないの!」
「簡単だよ。未来へ至る可能性はいくつもある。だが、結果は一つしかない。数多の過程をたどろうとも、訪れる結果は同じだ。だからこそ、君が見通す未来は、その“過程”を告げているに過ぎない。今、視えただろう未来は確定された結末だ」
「どういうこと!? 結果は同じ? そんなことはありえない。だって、今までも未来は一つじゃなかった」
「それは違う。未来へ至る過程はいくつもあるが、決定された未来だけは覆らない」
「そんなことはないわ!」
「ならば、君にとってはそうなのだとしよう。だが、私には違うよ。例えいくつも枝分かれした過程があったとしても辿り着く先は一つだけだ」

 未来が見えないレガリアが断言するには聊か以上に強引だが、事実、フォルトゥーナの脳裏に浮かぶ未来は決定されていた。

「お前は何者だ!」
「言ったはずだ、私はレガリア。異端審問官を統べるものだよ」

 威風堂々とした立ち振る舞いはまるで王のようだ。
 否、彼は王と呼ばれている『絶対の王』と。


- 6 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -