零の旋律 | ナノ

Future possibilitiesT


 少女は最上階で祈る。

『例えばの未来が見える。それは異端審問官にこの場の全員が殺される未来』
『例えばの未来が見える。それは組織が壊滅し、残党狩りを異端審問官が始め、異端者が死に追われながら生きる未来』
『例えばの未来が見える。それは異端審問官の四人を殺すも、残りの異端審問官に殺される未来』

 数多の可能性の未来が映っては消えていく。それは存在するかも知れなかった未来の形だ。

『例えばの未来が見える。絶対の王の命によって何も残らない未来』
『例えばの未来が見える。異端審問官を退けて希望を手にする未来』
『例えばの――』

 数多の未来が見える彼女が告げる言葉。
 どれもが絶望的といっても過言ではない未来、だが、その中にある未来は全てが絶望ではない、希望が混じっているのだ。
 未来に希望がある限り、彼らは諦めるという選択を選ばなかった。

「希望の未来があるのならば戦おう」

 誰かがいった、その言葉に誰もが同意した。最初から戦う意思の強いものたちの集まりだ。そうでなければ、圧倒的戦闘能力を有する殺戮集団に目をつけられようとは最初から思いもしない。
 だから彼らは戦う。例え同胞が目の前で真っ二つにされようとも、例え同胞が目の前で融けようとも、例え同胞が目の前で撃ち殺されようとも、彼らは前に進む。犠牲をなくして“自由”が得られるとは思っていない。だからこの犠牲を乗り越えて彼らは自由を掴もうと足掻く。もがく。手を伸ばす。この先にある希望に向かって。


 少女が最上階の神殿をモチーフに作られた独特の内部構造をするその場所で膝をついて祈っていた時、背後から扉が開いた。少女は咄嗟に手元に置いてある槍を掴み、構える。
 重厚な扉を開いて現れたのは少年だった。真っ赤な髪と瞳は『赤』でしかないのに異質な『赤』にしか見えない。少年とした風貌なのに、彼が放つ存在感は圧倒的だ。彼は人間ではないのか、そう錯覚するほどに異様で異質で異形だ。

「……」

 少女は槍の先端を向けながら、鋭く睨む。少年が何者かはわからないが、虚勢を張らないと膝をついてしまいそうで恐ろしかった。少年と少女の距離は僅か五メートル足らず。

「何者!」

 少女の、槍と同じ漆黒の髪が揺れる。警戒心を現しにした紫の瞳は猫のようだと“少年”は思う。

「私はレガリアだ、“未来を見る”君は?」
「……フォルトゥーナ」

 少女は驚愕し、名前を名乗る返答時間が数秒遅れた。何故自分が“未来を見る”――正しくは可能性の未来を見ることが出来るのを知っているのか、否愚問かと少女は自嘲する。この場までたどり着けたのだ、もしかすれば仲間を拷問でもして吐かせたのだろう。ならば、自分のことを知っていても不思議ではない。
 現状の問題は眼前にいる“少年”が何者かということだ。レガリア、その名前だけで推測が出来るほど少女は世間を知らない。何せ少女が『自由』になれたのはほんの二年前なのだ。


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