BloodySnowW 吐き捨てるような忌々しい表情で異端者は暴言を吐く。 「はっ本当に気色悪い狂信者どもが!」 「狂信者で結構、我らが王の邪魔だてはせずに大人しく死にな」 アミークスの宣言に、異端者たちの銃士たちが一斉に引き金を引く。だが、武道集団であり“殺戮集団”と恐怖の対象である異端審問官がこの程度の攻撃で死ぬわけがない。 ウィクトルは大剣を抜き取り、頭上から地面へ大剣を振りかざす。空気に風が生まれ銃弾を弾き返す。 アミークスは自分に迫ってきた弾丸だけを、細い糸で切断する。他の異端審問官たちも各々の武器で各々の身だけを守る。銃弾の嵐が止んだ時、しかし異端審問官は無傷だ。 「ちっ!」 異端者の男は舌打ちする。異端審問官をあの攻撃で全て殺せるとは思いあがっていないが、それでも数名は仮に殺せずとも戦闘不能までは追い込めると思っていたのだ。 それこそ――思いあがりだ。 この場に集まった異端審問官はウィクトルたちを含め系八名。 正面きって彼らは組織を壊滅させ、血濡れたクリスマスへ舞台を変貌させる。 まさに、それは殺戮集団の呼び名が相応しいだろう。 異端審問官が狂人の笑みを浮かべる。 「だが、怯むな! これはまだ“選択された未来”の一つ!」 異端者の男の叫びに、竦んでいた異端者たちが熱気を取り戻す。 「そうだ、我らは選択された未来の一つを選んだに過ぎない」 「なればこそ、諦めるのはまだ早い」 「数多ある未来から望んだ未来を勝ちとるために」 異端者たちは自分たちを奮いたたそう叫ぶ。願った未来を手に入れるために異端者たちは戦う。その先に選択された未来があると信じて。 「選択された未来の一つ? なんだろうね、ウィクトル」 「さーな。どちらにしても俺らの仕事はこいつらを壊滅させることだ」 「まっそれには同意だね」 異端審問官は選択された未来の一つ、その意味がわからずとも構わなかった。 異端者組織――否、組織イーデムが箱庭の街にとって救世主だろうと希望の光だろうと関係ない。 そんなもの『絶対の王』からの命令の前では無意味。 霞みさえも残らない。 +++ 『是は未来の選択肢の一つ、どの未来になるかは人の意思によって決定される』 少女がそう言い放つ。数多の未来を見てきた少女の言葉を誰一人として疑うものはいない。 彼らは熱気、歓喜する。未来の選択肢の一つ、無数にある星星から手を伸ばし、願った未来を掴みとるのだ。 箱庭の街を壊し、外と同条件の世界を魅せる。それが組織イーデムの目的だ。 だが、目的を達成するためには障害が立ちはだかる。 異端審問官組織だ。絶対の王と呼ばれる存在によって構成されたメンバーは誰もが“化け物”と呼ぶのにふさわしい戦闘能力を有している。 絶対の王に目をつけられた組織は今までどれ一つとして跡形もなく滅ぼされた。忠実なる僕の異端審問官によって。 それでも、彼らに逆らうものが異端者として現れるのは、“自由”のためだ。 この現状を打破するためには絶対の王に逆らわなければならない。 何より――『絶対の王』と呼びしたがっているのは異端審問官だけで、他のものにとってみれば従う義理はない。 だから――武器を手に取り戦う。 箱庭の街を救う可能性が零でない限り。 [*前] | [次#] TOP |